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青木栄一 ·東北大学大学院教育学研究科教授

衆議院文部科学委員会(2025-04-18)での発言

第217回国会 ·第第9号号 ·4,383字
○青木参考人 おはようございます。東北大学大学院教育学研究科教授、青木と申します。教育行政学を専門分野としております。  本日は、意見を陳述する機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。  私は、第二次ベビーブーム世代ど真ん中でして、千葉県の小さな町で生まれ育ちました。小中学校、高校と地元の公立学校で学んだ後、大学、そして大学院まで進学することができました。その過程で、いつからか、世界的に見てもすばらしい日本の公教育システムの中で毎日懸命に教育に従事しておられる全ての先生方が働きやすさと働きがいを持てるようにしたい、そういう思いを持ってまいりました。これは、文部科学委員会の先生方と思いを同じくしていると感じます。  それでは、意見に入ります。  意見の冒頭ではありますが、今回の法案について、私の基本的な評価を僭越ながら申し上げます。  本法案が対象とする制度は、長年にわたり様々な批判と再検討の声にさらされており、このテーマは大変重く、慎重な議論と着実な制度設計が求められます。私は、全体として本法案を前向きに評価いたしますが、それはあくまで、過去の問題を直視しつつ、未来への一歩を丁寧に踏み出そうという意思が感じられるからです。  といいますのも、この法案には、政策の総動員と言えるような姿勢がはっきり見えており、教員の多忙、学校の働き方改革という課題に対して、動員可能な政策手段をしっかり整備して対応しようという意思が感じられるからです。  貞広部会長の下、私も中教審特別部会の議論に参画いたしました。その議論を振り返ってみましても、そこでの議論は妥当な方向性だったと認識しています。つまり、精神論や理想論を語って終わったり、絶望にさいなまれて既存の政策を全否定するのではなく、現実の制度の機能を直視し、どう改善を図っていくのかという現実論、手段論のところがしっかりしていたと思います。これは非常に重要なポイントであると感じました。  また、注目すべき点として、国としての制度設計の議論の場として、どこまでが国の責任で、どこからが地方や学校、校長の責任かという線引きもかなり明確に意識されていました。この仕分があることで、それぞれのレベルでの責任の所在がぼやけることなく、適切に政策を実施できるような提言に結びついたと考えています。  ここからは、私なりに三つの観点から法案を評価していきます。  第一に、私の専門であります政府間関係論という観点からです。  政府間関係、言い換えれば、国と地方の関係の観点から見ますと、今回の法案は極めて前向きに捉えられます。といいますのも、ある意味で、教育行政の地方自治の原則を踏まえつつも、踏み込んだ規定を打ち出しているように思えるからです。通常であれば、公立学校の設置者である自治体に相当程度任せるべきところを、あえて国がリーダーシップを取っています。今回の法案は、地方自治の尊重と中央の責任、そのぎりぎりの接点を巧みについた、覚悟を持った制度設計だと評価します。  例えば、改正案では、教育委員会に対して、教員の業務量の適切な管理と健康、福祉を確保するための実施計画の策定、公表を義務づけるだけではなく、計画の実施状況の公表も市町村単位で義務づけています。さらに、この一連の対応を、教育行政に閉じることなく、総合教育会議への報告を義務づけることによって、首長を始めとする多様なステークホルダーとの連携、協働も教育委員会に求めています。  加えて、給特法と関連する法律の改正を通じて、学校単位の動きにまで義務づけを含む強い規制を二つかけます。一つ目は、公立学校が、学校評価の結果に基づき講ずる学校の運営の改善を図るための措置が、先ほど触れました実施計画に適合するものとなることを義務づけます。二つ目は、公立学校の校長が学校運営協議会の承認を得ることとなっている学校運営に関する基本的な方針に、業務量管理・健康確保措置の実施に関する内容を含めることとします。  これらの改正案は、いずれも、教育行政の地方自治原則からすれば、教育委員会の行動を強く枠づけるものであると言えます。しかし、教育行政の地方自治原則のぎりぎりの範囲内で、緊急事態とも言える現在の教員の働き方を改善するという強い意志の表れと肯定的に評価しています。  この国の強い方針に対して、教育委員会や学校が適切に制度を運用することが鍵になります。これを教育ガバナンスの観点から見ますと、例えば、既に触れましたが、総合教育会議や学校運営協議会といった仕組みは、教育委員会に加えて、首長、保護者、地域住民といった幅広いステークホルダーを巻き込むものです。教育委員会が単独で抱え込む時代から、教育行政の外部主体と連携して進める開かれた教育行政への転換点に立つものと言えましょう。  こうした既存の制度を給特法とうまく組み合わせることで、教育委員会や学校が教員の業務量の適切な管理と健康、福祉を確保するための措置の実効性を主体的に高める狙いを持つこの法案を積極的に評価します。  第二に、個々の学校に目を向けたとき、特に注目されるべきなのが学校マネジメントです。その中でも、いわゆるミドルマネジャーあるいはプレーイングマネジャーと呼ばれる存在の重要性が今日増してきています。  例えば、学年主任や教科主任といった立場の人たちが、自らの授業に加えて、チームメンバーの相談を受け、成長を促すことが求められています。これまでの学校では、いわゆる鍋蓋型組織と呼ばれる構造が根強く、マネジメントが機能しにくい状況でした。マネジメントが機能しなければ、業務の割り振りや適切な分担も期待できません。  教員の自発性に委ねるべきものは教育活動であり、働き方に関してはマネジメントをしっかり機能させる必要があり、働き過ぎの教員に対しては管理職がちゅうちょなく介入し、速やかに働き過ぎの状態から脱出させるべきです。  今回の改正案では、主務教諭を置くことができるという任意設置規定ではありますが、これは学校組織の中にマネジメント体制を制度的に整備していくものであり、まずは、これまでの鍋蓋型組織の課題を克服する突破口となると期待しております。教員の働きやすさと働きがいは、学校にマネジメントの風が吹くことで初めて達成され、守られるものと考えます。  もちろん、マネジメントを機能させる前提条件としての教職員の定数改善は必要不可欠と考えます。  第三に、教員の処遇改善です。  教職調整額が、教員の業務が教員自身の自発性、創造性に委ねられる部分が大きいことから、勤務時間の内外を包括的に評価し、本給相当として支給されるものという整理はさきの中教審答申でも改めてなされましたが、私もその考えに賛同いたしました。  確かに、今後は、働き方改革を着実に推進し、教員の長時間労働が常態化している現状を是正していくことが不可欠です。こうした前提を踏まえることは重要ですが、むしろ、働き方改革が実現された後の姿を見据えることで、教職調整額の制度も、ようやく、その制定当初に期待されていたとおり、教員にとって望ましい形で機能し得ると考えられます。  改正案では、教職調整額の率を四%から一〇%に引き上げることとされています。法案の目的である教員に優れた人材を確保するためにも、給特法制定時と同様の一般行政職に対する優遇措置の回復、また、直近の民間セクターの給与水準の上昇を踏まえた人材確保策の観点からも、教員の処遇改善となる教職調整額の引上げは妥当と評価いたします。  なお、今回の法案の実効性確保については、教員の人事評価制度や育成のための指標といった制度、さらには研修制度とも関連づける必要があり、これらは現在中教審で審議していますが、不断の制度改革が求められると考えています。  最後に、給特法そのものに対する評価を述べたいと思います。  給特法の成立過程を振り返りますと、当時の文部省の担当局長が次のように給特法成立後のスタンスを述べています。国会の会議録に記録されていますその発言の一部を読み上げます。「超勤命令をしなければならないときには、健康や福祉を害しないように、ほんとうに教師の立場になって校長が考えていくとか、そういう点については今後行政指導において十分、命令権者の校長に、法の運用を誤らないようにという指導をしていくべきものと心得ておりますし、そのようにいたしたいと存じております。」。  その後の展開を見ますと、教員の勤務実態の把握やそれに基づいた措置について、文部省、文部科学省や教育委員会の対応には問題が全くなかったとは言えない面がありました。給特法は、制度の理念と現実の運用に乖離があったことも事実であり、その課題をどう乗り越えていくかが今回の法案に問われていると感じます。ただし、それは運用のスタンスにとどまるものではなく、給特法そのものに関する実効性の確保の問題でもあります。給特法というのは、教員の給与体系や勤務時間の扱いなどに深く関わっている法律ですが、単体で十分機能するものではありません。  今回の法案は、この給特法についての実効性をどう担保するのかという点を意識した内容となっています。中教審で抜本的な議論を行い、制度の根幹は維持しつつも、長年指摘されてきた課題を克服するために、国と地方の関係では踏み込んだ制度改革を盛り込み、さらに、関連制度との組合せで制度の実効性を担保するための改正だと捉えています。つまり、給特法単体では期待できない学校の働き方改革の推進を、関連する制度を活用しながら実現していくことが期待できます。  給特法成立時点では、欠けたピースが数多くあったのではないでしょうか。今回の法案には、まさにこの欠けたピースを埋めるような内容が盛り込まれています。これは非常に重要な進展でして、制度全体の整合性を取る上でも、教員の働き方改革を本気で進めていくためにも必要不可欠と思います。  この度の改革は、一つの法改正にとどまらず、日本の学校文化を問い直す挑戦でもあります。私自身は制度設計や教育行政の分析を専門とする研究者ですが、今この瞬間も教室で奮闘する先生方、そして未来を切り開く子供たちの姿を思えば、この法案が持つ意味は決して小さくありません。  議員の皆様におかれましては、是非この挑戦の意義を御理解いただきまして、教育の現場を支える力強い一歩として御検討いただければと存じます。  私の意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

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