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指宿信 ·成城大学法学部教授

衆議院法務委員会(2025-04-04)での発言

第217回国会 ·第第8号号 ·3,551字
○指宿参考人 おはようございます。成城大学から参りました指宿と申します。  本日は、意見陳述の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。  私は三十五年ほど、刑事訴訟法、法情報学、情報法などを教育、研究してまいりました。刑事訴訟法の分野では、これまで、取調べの可視化、録音、録画制度、証拠開示、あるいは最近話題になっています再審法、誤判救済問題等々を研究してまいりました。  情報通信技術の進展に関わりましては、主に情報学、法情報学の立場から、一九九八年ぐらいから、司法のIT化を熱心に唱える、そういう論考を数多く書いてまいりましたので、また、書籍も出版しておりますので、司法制度にITを利活用するという点については、全面的に、前提として賛成している次第です。  ところが、本日意見を述べさせていただきます電磁的記録提供命令、以下では省略して提供命令と申し上げますけれども、この点につきましては、反対の立場から意見を申し述べる所存です。  お手元に私の意見陳述資料がございますので、こちらを、細かい資料になっておりますので、要点をかいつまんでお話ししながら、私の意見を御説明させていただきます。  まず、今般の個人情報や通信情報に関わる提供命令の前提として、これまで、従来どういう手段が取られているかということを確認した上で、本提供命令の特徴というものをはっきりさせていきたいと思います。  スライドの二を御覧ください。  まず、現在存在する処分としましては、任意処分で捜査関係事項照会制度というものがございます。これは任意処分ですので強制することはできませんけれども、後ろにありますように、後ろに補足資料の一で捜査関係事項照会に関するデータをお示ししていますけれども、基本的に、事業者にとっては、照会状が来れば全部出すというのが実務であるというふうに承っております。  また、強制処分としましては、今回の提供命令の新設によって廃止されるとされています旧記録命令付差押えというものがございます。これは非常によく似た制度ですけれども、何が違うかということは、スライドの三に、提供命令を真ん中に置き、左側に記録命令付差押え、右側に捜査関係事項照会というものを置いて、分かりやすくしております。  例えば、処分内容ですけれども、これはいずれも、記録命令付差押えも事項照会も、電磁的記録の保管者から提出させる、提供させるという点で、ほとんど同種のものであります。違うのは、これに対して間接強制を加えるというところです。捜査関係事項照会は任意処分ですから当然ありませんけれども、現実には、照会状が来れば出すという実務が定着している。それに対して、記録命令付差押えには間接強制がないというところが大きな違いだろうというふうに思います。  また、保秘要請、処分の漏えい禁止につきましては、捜査関係事項照会には条文上これが明記されており、照会状の中の一番下に、下段にこれがはっきりと書かれています。これに対して、記録命令付差押えにはございません。この点が今回の提供命令の大きな特徴であり、しかも、これに違反した場合に罰則が加えられるというところが特徴であろうというふうに思います。  ただ、では、なぜこの新たな提供命令を創設するに至ったか。従来の記録命令付差押えや捜査関係事項照会でいかなる不具合があったのかという、立法事実が全く提出されていないところであります。  法制審議会に先立つ検討会では、エピソード的に捜査関係者からこのような支障があるというふうな物語が語られていますけれども、私が探したところ、捜査関係事項照会でどのような不具合があったか、あるいは記録命令付差押えでどのような、何件執行され、何件思うようなデータが取得できなかったかというような統計が全く提出されていないのが、今回の立法経緯の特徴であろうと思います。  具体的な問題としては、六点挙げております。  まず第一は、被処分者です。  今回の提供命令は、電磁的記録を保管する者と、これを利用してサービスを行っている事業者、この両方が対象になっているのが特徴であろうと思います。  捜査関係事項照会や記録命令付差押えは、ほぼ事業者を対象にしたものと想定されていますが、これが、被処分者が被疑者、被告人、またその家族も対象に含まれます。この点が大きな問題であろうと思います。  こうなりますと、当然、被疑者、被告人が本来有するべき権利利益がどのように保護されるか、あるいは、電気通信に関わるサービスを行う事業者の個人情報保護の義務がどのように担保されるかということが問題になるわけですけれども、それぞれについて十分な担保がなされているとは考えられません。他国の制度を挙げておきました。  また、提供されるべき対象データについても、特定性がございません。あらゆるデータが対象になっている。また、その種類、内容に制限がありません。大量に取得された場合の探索的な取得に対する歯止めがありません。  特に、今般の提供命令については、事前の令状請求に対する審査というものが用意されていますけれども、いかなる情報が取得されて保管されているかという事後的なチェック、事後的な保護手段が用意されていないのが今回の欠点として指摘できると思います。  三番目は、保秘要請ですね。  保秘要請の要件が抽象的に過ぎると思われます。また、保秘期間の定めもございません。また、保秘に対する被疑者、被告人側からの不服申立てがありません。同種の規定はドイツの刑事訴訟法にございますけれども、被疑者への通知延期は最大六か月で、延期はあくまで例外であるというふうに条文上定められています。また、違反に対する罰則も重過ぎるのではないかと思います。  四点目は、電磁的記録の保管、保存です。  これは、先般のGDPRの日本側の十分性認定に先立って、欧州側から指摘されていた問題です。捜査機関による個人情報の収集につき透明性に欠けるという指摘がございました。これは補足資料の二で詳細に説明しておりますので、こちらを御参照ください。  特に、電磁的記録に関わる、あるいは通信に関わる事業者からデータを押収した場合、そのデータ主体である個々人に対する告知の規定がございません。つまり、事業者側は不服申立てはできるけれども、データ主体である個々人は全く自分のデータが取得された、収集されたことに気づかないまま事態が推移する、捜査が推移するということがございます。これは各国で大きな問題となっており、やはり事後的なチェック、あるいはデータ主体に対する告知制度を設けるというような担保が取られているところです。  五点目としましては、先ほど来申し上げています間接強制ですね。  被疑者、被告人を被処分者に含める、今回の提供命令の対象とすることからしますと、これは黙秘権の侵害と重なってくるのだろうと思われます。  最後は、内容確認措置と必要な処分です。  今般の法案では、内容確認のため必要な処分ができるということになっていますけれども、これはいわゆるアクセス制御の解除を念頭に置いたものだろうと思われますが、これについて、例えばイギリス法では、パスワード開示要求を間接強制することは法的に認められていますが、一定の要件が課されています。国家安全保障、犯罪発生の防止、犯罪の探知、英国経済利益の保護といった要件が課せられているところです。  このように、各国の法制度を比較した丁寧な比較法的検討がされていないのが今般の立法経緯ではないかと思います。そうした点を、全体的評価として、スライドの十に掲げておきました。  また、電気通信事業者や通信に関わる事業者からデータを取得することが前提になっているところ、個人情報保護法の専門家が今般の法案作成の議論に参加していないという点も私は問題ではないかというふうに思いますし、そうした大量の個人情報を取り扱う大規模事業者等からの意見聴取も公的にはなされていないというふうに承知しています。これらの点は、先生方の方で、是非、この立法についてお考え直しいただきたい。  一言で申しますと、個人情報、通信情報を扱う大規模事業者に対する取得処分と被疑者等の管理する電磁的記録へのアクセスを同じ提供命令という一つの行政処分で一緒に立法しようとしたというところが、これがミスマッチなのではないかというふうに私としては評価している次第ですので、是非御検討いただきたいと思います。  以上です。(拍手)

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