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遠藤典子 ·早稲田大学研究院教授

衆議院予算委員会公聴会(2026-03-10)での発言

第221回国会 ·第第1号号 ·5,107字
○遠藤公述人 ありがとうございます。  早稲田大学でエネルギー科学、また安全保障の議論に参加させていただいております。政府の成長戦略会議の委員でもございます。どうぞよろしくお願いいたします。  まず、今起こっているイラン戦争の事象につきましてなんですが、エネルギーへの影響度を少し私の方からお話し申し上げたいと思います。  ホルムズ海峡というのは、世界の石油消費量の二〇%に相当する日量二千万バレル、世界のLNG貿易の約二〇%が通る最大のチョークポイントです。その封鎖が実際に起こるなんてことは、イスラエルの空爆が始まった去年の六月とか、今年の二月になっても、我々エネルギーの研究者であるとか実務家であるとかは全く想定をしておりませんでした。それはやはり、合理的な結論を導こうとすると、それがいかにもナンセンスだったからです。  八〇年代のイラン・イラク戦争においても、完全封鎖されたとは言えません、言っていません。今回も、イランの方は六日に、封鎖したこともなく、封鎖することもないというふうにイラン軍の報道官が説明をしています。  ただ、現実的に起きていることを申し上げますと、確定的に起きている途絶がありまして、ロイターの報道などによると、現在のイランの石油生産が約八割減少しています。それをざっくり計算すると、世界の原油供給量の約三%が生産ベースで消滅したことになります。  途絶し得る供給としては、仮に二千万バレルが供給途絶となった場合、世界の原油供給の一九%が消滅することになります。これは輸送による途絶のベースです。  そういう状況の中で、スポット価格が今どうなっているのかを見ますと、お手元の資料を御覧になっていただきたいのですが、今、私が作ったデータは三月六日までだったんですが、その後、二六から三〇%の上昇をしまして、WTIは百十八ドルに達しました。これは長期戦にもつれ込むということを市場が織り込み始めたんですが、ここに、G7が協調備蓄の放出を検討しているという報道がありました。それで百四ドルに下落する。  しかも、今度はトランプ大統領が、戦争はほぼ終了だという発言を行いました。そうすると、八十一ドル台にまた下がる、乱高下をしているということです。しかも、それは一米国の大統領と申しますか、その方の発言によって市場が乱高下するので、今後も確定的なことが申し上げられない、非常に注視せざるを得ないマーケットの環境になっているということが言えるかと存じます。  一方、LNGのマーケットについても、最大の輸出国であるカタールのLNGの九割超はホルムズ海峡を通過します。ここも、LNG船のスポット運賃が四〇%跳ねただとか、カタールの生産の二割を担うラスラファンというところがあるんですが、そこがドローン攻撃を受けたとか、フォースマジュールというんですが、契約上の出荷を免責、一時停止を主張するための宣言というのがあるんですが、それを行ったとか、そういった報道がスポット先物価格を引き上げたり引き下げたり、そういう報道によってとにかく乱高下しているということが言えると思います。  過去を振り返ってみますと、ロシアによるウクライナ侵略のとき以降、初めてこれほどの高価格になっているということが言えると思います。もちろん、リーマン・ショック以降、リーマン・ショックの直前が最も高かったときなんですけれども、そこから非常に低位で流動していた価格が、今回、久しぶりに跳ね上がることになったということです。  もちろん、日本は輸入をしています。為替の影響を大きく受けますので、円安に振れる場合は輸入のインパクトが大きくなるということが言えると思います。  ただ、足下なんですけれども、ガソリンの価格は、円安の影響を補助金でカバーしてきました。ガソリンの補助というのは去年の末で終了したんですけれども、三月頭までの全国平均だと百五十八円ということで、下がっております。今後上昇が見込まれるために注視が必要ですけれども、先ほど申し上げたように、一国の大統領の発言で非常に揺れるような市場だということが言えると思います。  足下の石油の備蓄については、世界トップレベルで、二百五十四日ございます。石油火力は、沖縄電力とか一部まだあるところがあるんですが、廃止が進んでいまして、むしろ、石油の影響を受けるのは、電力だけではなくて、石化の製品の価格上昇が見られるかもしれないということです。  例えば、エチレンなどの原料になるナフサなんですけれども、日本で使うナフサは、国際生産分もあるので、国内消費全体で見ると中東依存度は約四割、輸入分だけで見ると約七割。ただし、日本の企業は代替先の確保に既に着手をしているというふうに聞いております。  LNGについては、大体約三週間分、四百万トン弱の在庫が電力、ガス会社にございます。ホルムズ海峡を経由するLNGの輸入量の約一年分が備蓄できているということです。  しかも、ウクライナ戦争のときの経験が生きていまして、電力会社等においては長期契約の締結が進んでいます。これは、価格の安定化に大きく寄与するものでございます。もちろん、電力会社の規模によっては準備の差があることは否めません。  ウクライナ戦争との違いなんですけれども、ウクライナ戦争で起きたことは、ガスフローの再構築なんですね。ロシアは供給先として中国を求めたし、ヨーロッパは調達先として米国を求めました。別の均衡に落ち着いたわけです。ネットとして不足しているわけでもなくて、現在と違うのは、生産が二〇%近く落ちるかもしれないというリスクがあるということが今回の危機とは違うということです。  現在、暖かい時期なのでいいだろうという状況でもあるんですが、欧州の在庫というのは今少ないんですね。春から夏にかけて、安定的な、比較的安価な時期に買い増すのが通例なので、アジアとの奪い合いになる可能性もあります。  石炭価格もじわじわと上昇しています。現状は古い石炭火力の稼働は抑えられているため、日本にとっては、その抑えたもののたき増しで、これも一つのカードになり得ります。四月から日本でも排出権取引制度が開始されるんですけれども、急速な脱炭素への移行は現実的ではないと私の方は考えます。一か月前を指数としたときの価格上昇度につきましては、右下の図に収めております。  日本のエネルギー構造に触れてまいりたいと思います。ごめんなさい、その前に、ちょっと一つ、アジア諸国への影響について触れておきたいと思います。  ホルムズ海峡を通峡するLNGというのは、八〇%がアジア向けなんですね。日本のLNG輸入の中東依存度は一〇%程度、ホルムズ海峡への依存度は六・三%と多様化ができているんですが、深刻なのは、アジアの中で台湾です。ホルムズ依存度が高くて、かつ発電量における天然ガス火力の割合が高いわけです。しかも、脱原発政策への深化というか、進めていますので、代替性が低いです。  台湾は、世界的な半導体の拠点であります。台湾経済への影響を通じた国家安全保障の問題、世界経済への影響にも非常に注視が必要だと思っています。こちらの図が、私は、非常に新しい、日本としては、台湾との関係で注視しなくてはならない状況として顕在化してきたなというふうに思っています。  日本のエネルギー構造に参りたいと思います。  こちらの鉱物性燃料の輸入でという表を見ていただければ分かると思いますが、古くから言われていることなんですけれども、資源に乏しく、化石燃料の輸入に依存している我が国でございます。貿易収支の赤字の大きな要因であり、大体三十兆円前後の国富が海外に流出している、稼いだ外貨を吐き出しているというふうな状況です。  次に、日本の電源構成は、次のページの発電電力量の推移というところで表していますが、石油ショック以降、中東依存度の軽減を輸入元の多様化及び電源構成における脱石油で図ってきました。石油の割合を減らし、石油火力を減らし、あと中東依存度を減らすということです。輸入元は、中国とかインドネシアに一時分散して六七・九%まで落ちたんですけれども、またコロナ禍以降高止まりして、中東依存が高いということです。  民主党の菅内閣のときには、第三次エネルギー基本計画を立てました。このときは、五割を原子力で賄うということを掲げています。福島事故の結果、化石燃料比率が一気に高まってきましたが、ここで申し上げたいのは、原子力の重要性です。  つい三月三日のことでございますが、東京電力の柏崎刈羽原発の六号機、これは設備容量が百三十六万キロワットなんですが、ようやく一〇〇%の出力に到達しました。試算すると、この六号機たった一基で年間百十万トン相当のLNGの節約が可能になります。これは、ホルムズで賄える分の三分の一です。  原子力発電は、皆様も御存じのとおり、極めて発電効率が高くて、その原料であるウランの七割はカナダ、オーストラリアから輸入していますし、転換、濃縮プロセスも脱ロシアが進んでいます。国内にも、もちろん濃縮の設備があります。そういう意味では、準国産電源に位置づけられているわけです。  格納容器など発電用のシステムのサプライチェーンは、日本製でまだ完結できています。同じ脱炭素電源でも、中国の依存度が高い太陽光や風力とは異なります。また、これは、風が吹いたとき、太陽が照ったときということになりますので、今、AI、データセンターを中心とするそういう産業が活況を呈して、このボトルネックは電力ということが世界中に言われています。つまり、産業競争力を電力が決めるという時代になっているわけです。ここで原子力をしっかりと中長期的に見直していく必要が、極めて重要な日本の課題だというふうに考えております。  今、よく経産省が作っております日本の稼働の状況を見ていただければ分かると思いますけれども、まだ設置変更許可が出た三基、規制基準の審査中が八基ある状況で、なかなか再稼働に時間を要している状況であります。また、地元同意も非常に難度を極めています。やはり、安全が確認された炉の再稼働が急速に進められるということが、日本のエネルギー、経済、産業の安全保障の喫緊の課題だというふうに考えます。  具体的に何をすればいいのかということなんですけれども、まず、特定重大事故等対処施設、いわゆる特重施設というものがございます。これは、意図的な航空機が衝突するテロみたいな重大事故に対処するバックアップ施設でして、信頼性を向上させるという営みの中で位置づけられています。  現行制度は、特重施設の設置期限というのは本体の工事計画の認可後五年以内とされているんです。その建設には大規模工事が必要ですし、大体、今の人手不足、資材の高騰を考えると、非常に時間がかかっているという状況です。今、特重施設を設置することが義務づけられていますけれども、ほとんどの電力会社の発電所が設置期間を超過してしまっていて、運転を安全だと認められたのに停止しなくてはならない状況になっています。例えば、東北電力の女川原子力発電所、こちらの特重施設の設置期限が今年の十二月二十二日に迫っています。今の段階でいきますと、到底間に合いそうもない状況です。  現行制度では、先ほど申し上げましたような工事認可後が起算日になっているんですけれども、それよりも、使用前検査、つまり、営業運転の開始から五年以内というような起算日に変更していただくというような措置が、今々、原子力について国が対応し得る一つの状況だと思っております。  先ほど申し上げました石炭火力についても、第七次エネルギー基本計画、こちらの策定に私も関わりましたが、石炭はバックアップ電源として位置づけられています。  もちろん、環境規制もありますし、脱炭素の大きな目標もありますが、今、この日本の存亡の危機にあるようなエネルギー危機の状態においては、あらゆる手段を講じるということがとても必要になるかと思っております。そのために総力を結集していくということをあらゆる議論の場で進めてまいりたいと思いますし、国会におきましても、そういった議論を是非進めていただきたいというふうに思っております。  私の方からは以上でございます。(拍手)

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