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辻琢也 ·一橋大学大学院法学研究科教授

参議院行政監視委員会(2026-03-09)での発言

第221回国会 ·第第1号号 ·3,924字
○参考人(辻琢也君) 本日は、参議院行政監視委員会という大変重要な場におきましてお話しする機会をいただき、誠にありがとうございます。私は、一橋大学で行政学、地方自治論を専攻しております辻と申します。  本日の私の申し上げたいこと、これは重大な一点に尽きます。人口増加という成長社会を前提とした国、地方関係を、超高齢、人口減少という成熟社会を前提としたものへ根本的に方針転換していかなければならない、このことに尽きます。  近年、国境を越えたデジタル化の波と国内における深刻なマンパワー不足が相まって、こうした根本的な方針転換は待ったなしの状況にあります。本日は、私が研究現場で目の当たりにしました秋田県と富山県という二つの自治体の現実を共有し、この難局を乗り越えるために市町村、都道府県、そして国がそれぞれどのような役割を担うべきなのか、皆様とともに考えたいと思っております。  まず、私たちが直面している現実を再確認します。配付資料の二ページから六ページ、これが秋田県に関連するものです。  秋田県は、ここ十年以上、人口減少率が全国一高い水準にあります。ここで重要なのは、その人口減少の主要因が、若者の東京への流出、いわゆる社会減から、高齢化に伴う死亡数の増加と少子化に伴う出生数の減少から成る自然減へと移行している点にあります。  したがって、仮に今すぐ希望出生率である一・八を達成し、社会減が解消されたとしても、人口が安定的に推移するようになるまで四半世紀以上の時間を要します。私たちがどんなにすばらしい政策を打ち出しても、今後二十五年間は人口減少に耐えなければならないという事態であります。  人口が減るとどうなるか。地域に人がまばらに住む低密度化が進行します。秋田県は、今年度、ツキノワグマによる人身被害が急増し、全国で報じられました。しかし、実は雪下ろし中の高齢者の事故など、雪害による死者数が熊被害の三倍にも上っています。生活の基盤を維持すること自体が命懸けになりつつある、これが少子高齢社会のリアルです。  一方、一人当たりの県民所得が比較的高い富山県も事態は深刻です。配付資料七ページから十六ページまでが富山県に関連するものです。  富山県は、秋田県に比べればコンパクトな県土を構成し、県庁所在地である富山市は、全国に先駆けてコンパクトシティー戦略を展開してきました。しかし、それでも人口の低密度化は避けられません。  その結果、コンパクトな富山県にも重くのしかかるのがインフラの老朽化であります。県が保有する建物の約七割が築三十年を超え、今後三十年で必要な更新費用は、施設を長く使う工夫をしても現在の経費を上回ります。富山市内でも、旧町村部に通行止めや重量制限されている橋梁が偏在します。少人数でも生活道路として使う住民がいる限り、簡単に橋をなくすことはできません。  こうした厳しい現実は、私は単なる衰退を意味するものとは思いません。これは、持続可能な規模へと社会を最適化していくための避けて通れない産みの苦しみと考えます。  そこで、配付資料十七ページから十九ページを御覧ください。  ここ近年、国や自治体は、児童手当の拡充など攻めの対策に関してはかつてなく思い切った対策を講じてきました。これ自体は高く評価すべきであると思います。しかし一方、年間出生数が七十万人を割ろうとしている現在、当面はインフラや行政サービスを適量に縮減、更新していく守りの対策も充実せざるを得ない状況にあります。  橋を架け替えない、施設を統廃合する、こうした省インフラの提案は、総論賛成各論反対に陥りやすく、実行には大変な困難が伴います。  かつて、自治体は、効率的な行財政体制を目指して、民間へのアウトソーシングや市町村合併で乗り切ろうとしました。しかし、現在、新たな合併の機運はなく、民間企業も人手不足とコスト高騰にあえいでおり、政府のアウトソーシング戦略も転換点を迎えつつあります。  こうした中で、配付資料二十ページが示しますとおり、この閉塞感を打破する最大の原動力はデジタル化と考えます。ここでは、自治体が主体となってデジタル化で顕著な成果を上げている先行事例を一つ紹介します。  それは、地方共同法人である地方税共同機構を活用した税務DXであります。これまで、地方税の徴収に際して、自治体はシステムをそれぞれが整備し、金融機関と個別に契約を結びました。しかし、地方税共同機構という共同のプラットフォームを設立し、eLTAXや地方税統一のQRコードを導入したことによって事態は激変しました。  機構が一括して外部機関との折衝やデータを取り込むことで、全国規模で経費が節減されました。国税との情報交換も一括して機構が行います。自治体の現場では、ミスが許されない納付の消し込み作業から職員が解放され、専門知識を持たない職員でも税務業務を担える環境が整いつつあります。納税者にとっても、窓口に赴くことなく多様な手段で全国どこへでも納税できる環境が整いました。機構は、現在、資金規模で国税e―Taxをしのぎ、国民健康保険料金なども取り扱う言わば地方版の歳入庁として機能しつつあります。  この際重要なのは、国がシステムの標準化の方針を打ち出す前から、現場のニーズを踏まえて自治体側が共同化の仕組みを準備してきたということであります。実効性あるデジタル化は、国の努力だけでは実現できるものではありません。現場を担う自治体の主体的な努力があって初めて達成できるものであり、国頼みの他力本願ではなし得ないことであります。  ところで、デジタル化といっても、全てをデジタル化に置き換えようというものではありません。今後重要なのは、デジタル技術を徹底的に使い倒すことで単純な事務作業から職員を解放し、そこに生み出された余力を、人にしかできない対面サービスや政策立案に再配分するということです。アナログとデジタルのベストミックスこそが、国、都道府県、市町村それぞれ共通の政府経営の真髄と考えます。  それでは、こうした現実を踏まえて、国、都道府県、市町村はそれぞれどのように役割分担を再構築すべきでしょうか。  配付資料二十ページから二十三ページに記したことを、市町村、都道府県、国という政策主体別に再整理して言うと、次のとおりとなります。  市町村は、住民に最も近い最前線で、デジタルとアナログのベストミックスを地域社会に実装する役割を担います。行政手続の徹底したデジタル化を進め、場合によっては外部委託していた業務をデジタル前提で内製化し、組織の機動力を高める必要があります。  そして、そこで生まれたマンパワーを使い、住民の顔を見ながら、インフラの縮小や統廃合という痛みを伴う最適化について、勇気を持って、しかし丁寧に合意を形成していく、これが市町村の最大の使命であります。  都道府県は、単なる市町村の取りまとめ役ではなく、より広域的な視点から全体最適をデザインする役割を担います。  例えば、富山県の橋梁の図が示していますとおり、橋梁も県内には国、県、市町村のインフラが入り乱れ、それぞれがばらばらに管理しているだけでは無駄が生じやすくなります。管轄を超えてインフラの複合化、集約化を主導するのは県の役割と思います。  また、富山県の多くの市町村で例えば農業の専門職員がゼロ人となっているように、日本全国で市町村単独による専門人材の確保は不可能になりつつあります。県は市町村と一体となって専門業務を補完し、マンパワー不足を広域的にカバーする広域調整、補完機能をこれまで以上に強化しなければなりません。ケースによっては、市町村に代わってインフラを整備、維持管理していくこともあり得ます。  最後に、国の役割は、地方がこの守りの経営を確実に行えるよう、制度と財源の環境を整えることにあります。  これまで国は、インフラの新設には手厚い補助を出してきましたが、これからは縮小、更新、管理、除却、こういった事業に対しても更に財政措置を拡充すべきと思います。  また、デジタル化やネット取引の恩恵が東京都などに偏在する現状を是正し、地方が安定的にサービスを維持できる一般財源を確保することも不可欠に重要な要素であります。  さらに、標準化を進めてデジタル基盤の整備をするのも国の役割です。その際、地方税共同機構が証明しましたように、国は全国共通に使えるプラットフォームを自ら提供するばかりではなく、使い勝手の良いものにするために、自治体共同での整備を支援することも重要な役割となります。  以上、考えますと、人口減少は決して悲観すべき未来とは思いません。人口が減っても、一人一人が豊かさと安心を実感できる社会をつくることは十分に可能です。私たちが省インフラや全体最適に真剣に取り組むのは、単に予算を削るためではありません。将来世代に過度な負担を残さず、未来をつくる魅力的な投資を確保するためであります。  これからの時代に必要なのは、これまでの常識を疑い、柔軟に、そして未来志向で行動することです。国、都道府県、市町村がそれぞれの個別利害を離れて、駄目だったら柔軟に直すということを前提に、合意できたことからトライアルでまずやってみる、このことこそが私たちを豊かな成熟社会へと導く鍵になると思います。  以上をもちまして、私からの意見開陳とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。

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