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宇田幸生 ·弁護士

参議院法務委員会(2026-07-14)での発言

第221回国会 ·第第20号号 ·2,840字
○参考人(宇田幸生君) ありがとうございます。  それでは、宇田幸生より意見を述べさせていただきます。  弁護士の宇田幸生と申します。  私は、四半世紀にわたり犯罪被害者の支援に携わってまいりました。殺人や交通死亡事故など被害者の方が命を落とされる凶悪な事件が中心で、性犯罪被害の支援も手掛けてきました。名古屋市の犯罪被害者支援条例検討では有識者会議の座長を、愛知県弁護士会では犯罪被害者支援委員会の委員長を務め、刑事損害賠償命令制度では我が国で第一号となる事件を担当いたしました。  本日は、こうした経験に基づき、被害者の観点から再審法の改正について意見を述べさせていただきます。よろしくお願いいたします。  私が犯罪被害者支援に関わるようになったのは、忘れることのできない原点があります。四半世紀の前、ある少女に対する性犯罪事件で、私は加害者側の弁護人として謝罪のために被害者のお宅にお伺いしました。応対してくださったお母様は、その場で泣き崩れられました。すると、奥の部屋から被害に遭った少女が出てきて、お母さんをいじめるなと私に向かって叫んだのです。その言葉に、私は心がえぐられました。以来、被害者はどうすれば回復できるのかを考え、被害者支援に携わるようになりました。  犯罪被害者は、ある日突然犯罪に巻き込まれ、人生が一変します。それでも、判決が確定することは被害者にとって一つの区切りになります。このことを、私がかつて代理人を務めたある強盗殺人事件の御遺族が、昨年、法務省の法制審議会で語っておられます。たった一人の家族であった娘さんを奪われたお母様です。確定判決が一つの区切りとなり、精神的には限界の中で、ある意味ほっとしたのを覚えていると。そして、再審で再び裁判が始まることを想像して、こうおっしゃいました。燃え尽きたものに再び灯をともすのは至難の業です。前を向いて生きようと決意したときに安易に再審が開始されたら、被害者はまた刑事事件に巻き込まれます。いつまでも裁判が終わらないというのは、犯罪被害者にとって大きな二次被害なのです。  次に、検察官の抗告について申し上げます。  本法案は、再審開始決定などへの検察官の即時抗告を取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限るとして、原則的に制限しています。さらに、全面的に禁止すべきという意見があると伺っております。  私は、被害者支援の立場から、とりわけ全面的に封じてしまうことには明確に反対であります。人は必ずミスをします。再審開始決定をした裁判官の判断が一〇〇%正しいことを前提とする制度には賛成できません。もし誤って再審開始が決定されても、不服を申し立てる機会がなければ通常審をまた一からやり直すことになり、被害者はいつまでも裁判が終わらない事態に巻き込まれます。  殺人事件の御遺族にとって、確定した判決がまた翻るかもしれないというのは計り知れない負担です。被害者が再び証言を求められることになれば、その負担は甚大です。特に、幼い頃に起きた性犯罪被害で、その子をまた法廷に立たせて証言させることが望ましいことなのでしょうか。時間がたてば事件当時の記憶も薄れますから、真実の発見に資するとも言えません。  性犯罪の被害者は、被害に遭ったことを親や配偶者、恋人といった親しい人にも黙っていることが少なくありません。刑事事件の判決が確定した後、被害を隠して結婚される方もいらっしゃいます。それが、再審開始が決まって通常審からやり直すということで検察から久しぶりに連絡があったときの衝撃は計り知れません。大切な人に過去の被害を知られたくないという思いは最大限に守られるべきです。  仮に冤罪であれば、犯人とされた人は救済され、真犯人が処罰されるべきです。それは当然です。しかし、確定した判決があり、それが正しかった可能性もある中で、不服を言う機会もないまま裁判を一からやり直すことは、国民の納得を得られないと思います。再審請求は年間およそ二百数十件に上りますが、その多くは無罪を疑わせる新たな証拠が添えられていないなど、形式的な要件を欠くものだとも聞いております。先ほどの御遺族も法制審議会でこう問いかけておられました。再審の請求者イコール冤罪者なのでしょうか、そのような視点でスタートするのは大変危険だと思いますと。  次に、証拠の目的外使用についてです。  刑事事件の記録には事件当事者のプライバシーが数多く記載され、事件とは無関係なものも多く含まれます。被害者は、犯人を検挙してほしい一心で捜査に協力し、証拠を提出しているのであって、それが本来の目的を超えて使われるなどとは夢にも思っておりません。証拠の目的外使用を認める意見には絶対に反対であります。  特に性被害では、性的な画像や映像が決定的な証拠となっている事件が多数あります。令和五年の刑事法改正で、検察官がそうした画像などを消去、没収できるようになり、被害者は大きな安心を得ております。先ほどの御遺族は、娘さんが拉致され殺害されたと聞いたとき、娘さんが性被害を受けていなかったかと気が気ではなかったといいます。後に、捜査を担当した刑事からその心配はなかったと伝えられ、ようやく胸をなで下ろしたといいます。その御遺族がこう語っておられます。娘が性被害に遭っていたとしたら、私は絶対に証拠を開示してほしくないです、娘の尊厳を亡くなった後まで傷つけてほしくありません。これが被害者や御遺族の偽らざる思いです。もし証拠が目的外に使われ、性的画像を入手しようと支援を装う人が出てくれば、被害者は被害申告をためらい、泣き寝入りを選ぶ人も出ます。一旦ネットに流出した画像を完全に消すことは事実上不可能です。  なお、真犯人の処罰のために必要な証拠開示を充実させること自体に反対するものではありません。反対するのは、事件と無関係なプライバシー情報の開示と目的外の使用です。  被害者も決して冤罪は望んでおりません。犯人ではない人が処罰されても、被害の回復にはならないからです。先ほどの御遺族も、法制審議会でのお話をこう締めくくられました。冤罪で得する者は、本当に裁かれるはずであった真犯人だけです、被害者も、無実の罪を着せられた者も、共に被害者です。私も全く同じ思いです。だからこそ、刑事法の改正を検討される際には、それによって被害者に不必要な負担が掛かったり、理不尽な思いをさせられたりする人がいないかどうか、しっかりと検討していただきたいのです。  四半世紀前にお母さんをいじめるなと叫んだあの少女のような人を、そして、今申し上げた御遺族のような方を、終わらない裁判によってもう一度苦しめることがないように、被害者の声に是非耳を傾けていただければと存じます。  以上で終わります。ありがとうございました。

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