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山口慎太郎 ·東京大学大学院経済学研究科教授

衆議院厚生労働委員会(2024-04-23)での発言

第213回国会 ·第第15号号 ·3,225字
○山口参考人 おはようございます。東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎と申します。  本日は、家族政策、労働政策の実証研究を行う経済学者の立場から、本改正案について意見を述べさせていただきたいと思います。  最初に総論を述べさせていただいて、その後、主要な三点についてお話しさせていただきます。  総論としましては、まず、ワーク・ライフ・バランスの改善で、多くの人が活躍する社会をつくることができるのではないかというふうに期待しております。現在、少子高齢化で、労働力不足が実際に進行しておりますし、これが今後深刻化していくことが見込まれていますが、ワーク・ライフ・バランスが改善することによって、全ての人が労働市場に参加していただくことで、御本人も経済的に収入を増やすことができるし、経済社会の安定にもつながるというふうに考えております。  とりわけ、短期的には女性の労働市場における活躍が進むのではないかという点に特に注目しております。  一方で、育児、介護をしながら働けるようになるということになると、じゃ、女性がもっと育児、介護をやったらいいよねというふうに期待されてしまうのではないかという懸念も同時に抱えております。いわゆるマミートラックに女性が押し込められてしまうのではないかということも重要な懸念点として指摘しておきたいと思います。ワーク・ライフ・バランスの改善、それ自体は望ましい方向だというふうに認識しておりますが、同時に、男性が家事、育児を積極的にやりやすくなるような、より踏み込んだ強い措置についても、今後何らかの施策が講じられる必要があるのではないかというふうに考えております。  では、三つの主要な点について意見を述べさせていただきます。  一つ目、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充についてです。  子供を持つ労働者により配慮した制度になることで、子育てと仕事の両立が一層しやすくなるというふうに期待しております。  また、全ての職種で利用可能なわけではないんですが、可能な方については、テレワークの利用というのも、非常に効率的で有効な取組になるのではないかというふうに考えております。  私たちの研究グループでは、テレワークがどのように労働者、特に男性の中高年の方の家事、育児に影響するのか、働き方に影響するのかという点について研究を行いました。その結果、テレワークが増えることによって、家事、育児時間が延びて、家族と過ごす時間が増えていくという好ましい方向の変化が起こることが分かりました。  同時に、通勤時間が減ることによって、労働生産性を犠牲にすることなくワーク・ライフ・バランスの達成に寄与することも分かっています。特に東京のような大都市部では通勤時間が二時間になることも珍しくありませんので、週一日、二日といった少ない日数でも、家族に対して大きな変化を及ぼすことができる非常に有効な施策だというふうに考えております。  また、育休取得などについて個別に意向聴取を行う、個別に配慮を行うことを事業主に義務づけることも非常に重要な取組だというふうに認識しております。  実は、日本は、育休制度については世界でも最も充実したものの一つであるということが、国際機関、ユニセフによって指摘されております。しかしながら、実際の男性の育児休業の取得率を見てみると、先進国の中でも極めて低水準にとどまっています。この背景にあるのは、やはり、職場で同僚、上司に気兼ねしてしまう、遠慮してしまう、そのために、実際のところ、取得はできない、制度としてはあるんだけれども使いにくいというのが現状になっています。こういった周囲に対する気兼ねを打ち破るための一つの方法として、第一歩として、意向聴取を個別に行う、配慮を個別に行うということは重要な変化になり得るというふうに思っています。  もっとも、それだけで直ちに男性の育休取得が容易になるというふうには考えにくいと思われますので、何らかの踏み込んだ施策が更に必要になってくるというふうには考えています。例えば、一部の民間事業所では行われていますが、育休取得者の代替あるいはバックアップとして入る従業員の方に、仕事量が増えるわけですから、追加の手当を支払う、それに対して行政が補助金をつける、そういった取組も、一つの男性育休取得を促進するための有効な取組ではないでしょうか。  二点目、育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進、強化についてです。  多くの若い労働者は、例えば私のような四十代、五十代あるいはそれ以上の労働者と比べて、ワーク・ライフ・バランスを非常に重視する世代だというふうに認識しています。これは各種アンケート調査にも顕著に表れるものですし、男性の育休取得意向などを見ても二十代、三十代ですと八〇%から九〇%で、もう育休を取るということが基本になっています。  こうした状況を必ずしも上の世代は理解できていないのではないかという懸念があるわけなんですが、企業が育休の取得状況を公表することによって、若い労働者がどういう企業で働こうかと選ぶ際にワーク・ライフ・バランスの重視というのが重要な観点になってくる、この部分の情報を透明化することによって、ワーク・ライフ・バランスを重視しているような企業がより若い労働者に選ばれやすくなってきて、将来的には、社会全体で育休を取りやすいような状況をつくり出せるのではないかというふうに期待しています。  今回の改正法案では三百人以上の企業ということになっていますが、今後は、この適用範囲を広げていくことが望ましいというふうに考えています。  また、数値目標の設定も必要な措置だというふうに考えております。一定以上の規模を持つような企業であったとしても、必ずしも自社の状況を把握できているとは限らないというふうに認識しています。自社の状況が正しく把握できていなければ適切な措置を講じることができないので、こういった形で公表義務ですとか数値目標を設定させることによって、社会がより育休を取りやすくなる、ワーク・ライフ・バランスを重視するような方向に進めていくことにつながっていくというふうに思っています。  そして三点目、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化ですが、先ほども申し上げたように、今後、高齢者人口比率というのが上昇していくわけで、そうなってくると労働者不足が大いに懸念されてくるわけです。また、全体の年齢層が上がってくるということは、介護を行う人が今後増えていくことが見込まれています。  こうした状況で、介護離職で労働力を失ってしまうというのは、企業にとっても社会にとっても大きな損失となり得ます。同時に、介護を行われる労働者御本人にとっても所得の減少、喪失につながるので、介護離職を事前に防げるような措置を講じておくというのは社会にとって非常に重要な取組になってくるというふうに認識しております。  最後に、改めて、まとめとして、今改正法案についての意見を述べさせていただきます。  育児、介護と仕事の両立支援を充実させることは、多くの人材を活躍させるために必要な措置であり、労働力不足を迎える日本経済にとって重要な措置になり得るというふうに考えております。  一方で、育児、介護しやすくなるからといって、女性に育児、介護の責任を期待してしまう、押しつけてしまうといったことにならないように、同時に注意していくことも必要であり、男性が育児、介護でもっと大きな役割を担っていくような措置も同時に取っていかなければいけないのではないかというふうに考えております。  私からは以上です。ありがとうございました。(拍手)

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