○鈴木公述人 学習院大学の鈴木でございます。
今日は、お招きいただきまして、大変ありがとうございます。
今日は、令和六年度の予算案に関しまして、私の専門である社会保障、特に異次元の少子化対策の辺りについて、思うところを述べさせていただきたいと思います。
私の資料は一枚でございますので、もうそれだけを言うという感じでございますが、まず最初に、一番言いたいことはこれなんですけれども、今更という感じもするんですが、今回の異次元の少子化対策というものについて、少なくとも、子供が生まれる、出生率が上がるという効果は学術的に見てほぼないということでございまして、これに三・六兆もかけるんですかというのが一番言いたいことでございます。
どうしてそういうことになるかということなんですが、まず、我が国の少子化の原因というのは主にどこにあるかというと、結婚したカップルが子供を産まなくなったというよりは、むしろ結婚しなくなったということなんですね。未婚率が上がったということに最大の原因があります。
少し数字を申し上げますと、二人の結婚したカップルが今産む子供の数というのは、完結子供数というんですけれども、出生数は一・九でございます。少子化に歯止めがかかる合計特殊出生率というのは大体二・〇六ぐらいだと言われていまして、要するに、二人のカップルで二人以上の子供が生まれれば日本は少子化が止まるわけでございますけれども、結婚したカップルについてはもう一・九産んでいますので、ほぼ少子化に歯止めがかかるぐらいの子供は産むわけですね。
それは当たり前で、結婚するとやはり一人っ子はちょっとかわいそうだなと思って二人ぐらい産むというのが常識でございますので、そこは余り手をつける必要はむしろないわけでございまして、問題は、今、一・二六という非常に低い出生率、これがもう、去年は一・二〇ぐらいになると言われていますけれども、そこと一・九の差はどこにあるかというと、結婚しないということなんですね。
ですから、少子化対策、とにかく日本人に子供を産んでもらおうと思ったら結婚してもらうということを考えなきゃいけないので、今回の異次元の少子化対策というのはそこにほとんど何も手がついておりませんので、それはもう効果は余りないというのが当然の帰結でございます。
それから、いろいろ、育児給付の増額とか対象拡大とか、金銭給付の拡大ということも今回目玉ではあるんですが、いろいろな経済学の実証研究がございますけれども、金銭給付で子供が生まれるという結果はほとんどないですね。それは当たり前で、まず、金額がすごく少ないですね。それもこの程度の金額でもう一人子供を産んでくださいというのは、なかなかそういう意思決定はしません。
そして、もう一つは、やはり、金額が給付されると、もう一人子供を産むという決断をするよりは、今いる子供にもっと教育費をかけようとか、お稽古事を増やそうというように、一人当たりの金銭を増やすというのが大体どこもそういう行動を取りますので、そういう意味では、ここも子供が生まれるというエビデンスはほとんどないです。
ただ、多子世帯だとか低所得世帯ではちょっと増えるかもしれませんので、的を絞った給付ということであればまだ理解ができますけれども、ここも割合も非常に少ないですね。なので、問題だと思います。
それから、大学の無償化とか、三人子供がいるといろいろ、大学の費用軽減とか修士課程の授業料の後払いとかいろいろございますけれども、これは余りにも遠い先のことでございまして、経済学では行動経済学という分野があって、余り先のことを言われても意思決定は変わらないということがよく知られていますけれども、これも余り期待できない。
あとは、保育士の待遇改善とか誰でも通園制度とか、いいことではあるんですけれども、これは、待機児童はもう激減していますので、少子化対策という意味では余り効果がないということでございます。
しかも、この財源については、大体、現役世代、子育て世帯を含む現役世代が九二%ぐらいの負担をするということでございますので、子育て世帯にとっては、給付は受けるかもしれないですけれども、出ていくものも出ていくということで、差引き、相殺がありますので、そういう意味でも余り効果はないということで、少なくとも、異次元の少子化対策は出生率を高めるという効果はほとんどないということは申し上げたいと思います。
ただ、要するに、異次元の少子化対策ではないけれども、子育て支援に対する拡充策、充実策という意味では少しは評価できるポイントもございますので、むしろ、そういうよい策もあるということは、もう一方申し上げたいと思います。
ということであれば、これは少子化対策というよりは子育て支援だというふうに堂々と言って、こそくな説明をするべきじゃないというのがもう一つの意見でございまして、支援金制度の国民負担が月五百円ですというのはちょっと余りにも不誠実な説明ではありませんかということでございますね。
もう既に、加藤こども相は、千円以上の負担の人たちもいるとか言って、もう説明が破綻していますのでこれ以上は申し上げませんけれども、やはり、誠実に、どういう計算になって、一人当たりどれぐらいの負担になるんですかということをきちんと説明しないとなかなか納得が得られないだろうということですね。
それと、せっかくワンコインと言ったのであれば、本当にワンコインの制度をつくるというのも一つありだったと思いますね。広く国民一般でワンコインでお願いしますという制度を新たにつくるというのもあり得たかと思います。
誠実さが足りないということなんですが、更に誠実さが足りないのが、支援金制度を導入しても国民負担率は上がらないというのは何事ですかということで、これは詭弁としか言いようがないですね。
私は別に、負担が上がることはいいと思うんですね。ちゃんとした制度をつくるのであれば、負担をお願いしますというのはありだと思うんですが、上がらないという説明をされると、これは何か非常に不誠実極まりないというか。
まず、首相がそういうことを言った理由としては、賃金が上がります、それから歳出削減しますということなんですが、賃金上昇というのは支援金と関係ないですね。賃金上昇は賃金上昇でそれは結構なので、支援金と合わせる必要はないわけでございまして、賃金上昇で支援金の負担がないと言うんだったら、国防費増もウクライナの支援も何でもありになってしまいますので、これは関係ないということを言わなきゃいけません。
それともう一つは、賃金増というのは、これは別に政府が努力したわけじゃなくて、民間の努力でありまして、関係ないだろうということでございます。それから、実際に賃金増も物価増に足りるだけの増加になるかどうかというのはまだ分からないわけでございまして、捕らぬタヌキの皮算用としか言いようがございません。
それからもう一つ、歳出改革でと言うんですけれども、これも捕らぬタヌキの皮算用でもありますし、本当かというところでございまして、最初、医療費の縮減で子育ての予算をつくるというふうに政府は言っていたわけでございますけれども、診療報酬を下げられなかったわけですね。なのに負担がないというのは、ちょっと論理的に矛盾しているんじゃないかということでございます。
そして、最後に、国民負担率という指標についてなんですが、これは非常に操作可能な数字なので、これで国民負担を測るというのは望ましくないと思います。
どういうことかというと、端的に言うと、借金を増やせば国民負担率は増えないですね。つまり、歳出増をして、保険料を上げたりしないで借金増で賄えば国民負担率は増えませんけれども、それは最終的には誰かが払うものなので、結局は国民負担増なんですね。なので、非常に国民負担率という指標は不完全な指標であるということですね。あるいは、医療の自己負担増をしても国民負担率というのは増えませんので、こういうもので測ってはいけないということでございます。
ということで、いろいろ問題でございますけれども、この支援金制度ということについては、私は、財源としては非常にいろいろな問題がありますので、撤回すべきだというふうに考えております。
これもどういうことかというと、ちょっと説明させていただきますと、まず、先ほど言ったとおり現役の負担が多いんですね、この制度は。医療保険という枠組みを使っている以上は、負担の受益が多いであろう高齢者は余り負担しないで、子育て世帯を含む現役世代がたくさん負担するという制度ですので、給付を増やしてもその分だけ負担が増えますので、これはフェアな制度ではないですし、効果も小さいということですね。
それから、医療保険に上乗せという制度なんですが、これは我が国が社会保障を営々と築いてきたこの社会保険制度という仕組みをぶち壊そうというようなそういう制度で、本当にこれでいいのか考え直した方がいいというのが私の意見でございます。
言わずもがなですけれども、社会保険というのは目的を定めてあるわけですね。医療なら医療、介護なら介護と定めていて、そこで必要な受益に対する負担があるから取りますと、受益と負担がリンクしているというのが原則でございます。余分なことをやろうと思うと負担が上がるから、それはちょっと待ってくれとか、緊張感が働く。財政を健全化するためには、目的があって、そのために費用を取るんだというのがリンクしているのが、非常にそこがキーである制度なんですが、そこに全く違う子育て支援みたいなものを入れるということは、社会保険の受益と負担のリンクを外すということだけじゃなくて、そこにいろいろなし崩しになる、経営の健全化という観点から、何か根本の制度をぶち壊しかねない制度であるということですね。
何でそんなことになるかというと、子育て負担の税を考えますということになるとハードルが高くなって、国会の審議も必要だということになるということだと思うんですけれども、なので、お手軽に、保険料は引上げが容易でございますので、取りやすいところから取って、上げたいときに上げられる制度を考えるということなのかもしれませんけれども、これは税という仕組みの抜け穴ですよね。本来、どういうものに使いたいから、国会で審議していただいて決めるというのが原則なんですが、保険料だとそれが非常に、全く議論がないとは言いませんけれども、非常に手薄になりますので、こういう何か使いやすい仕組みで税の抜け穴を使うというのは、何というか、中身の審議という意味でも問題である。
そして、見える化するために今回特別会計をつくるというんですけれども、それは何もないよりはいいとは思いますが、やはり一般会計に比べて特別会計というのは審議の時間も少ないですし、ブラックボックス化しやすいということで、見える化するからいいというものではないと思います。緊張感が働かずに、モラルハザードが働きやすい仕組みになってしまうということですね。
その意味では、やはり、もう一回支援金制度を考え直して、現行の税制度で考え直すとか、新しい子育て負担の税制度を考えるとか、あるいは、子供保険みたいな全く目的化しちゃう保険をつくるというのも一つの手だと思いますけれども、いずれにせよ、ちょっとじっくりそれは考えてやらなければならない制度で、今回みたいに泥縄的にやる話ではないだろうということです。
先ほど来申しましたとおり、子育て支援、出生率を上げるための少子化対策というのは、今まで余り、これが成功例ですというのは諸外国にもないんですよね。日本はとにかく少子化のトップランナーですので、なので、いろいろトライ・アンド・エラーをしなきゃいけなくて、失敗する制度もあろうし、やり直さなきゃいけない、いろいろなことを考え直さなきゃいけない制度なので、こういうものは、今内閣官房が一生懸命やっていますけれども、アジャイルな政策というもので、トライ・アンド・エラーしながら、失敗したものはやめて、いいものを大きくしていきましょうというような、そういう試行錯誤が必要な制度なので、そういう意味では、いきなり何か、恒久財源として財源をいきなり考えちゃうというんじゃなくて、今幸いにも税収に大分余裕がございます、税収が増えて余裕があるので、まずはいろいろやってみて、効果がありそうなものをピックアップして、この制度で固めますといって恒久財源の制度を考えるような、そんなやり方をすればいいのではないかというふうに思いますので、今すぐ支援金制度をつくるというのはちょっといかがなものかというふうに思います。
最後に申し上げたいことは、今、異次元の少子化対策というところでもう国民の耳目が集中していて、社会保障制度の改革というのはほとんどなされていないんですけれども、社会保障の課題は言うまでもなくいろいろございますけれども、少子化対策をやるからこっちは考えなくていいという問題ではないということでありまして、社会保障は社会保障で考えなきゃいけなくて、少子化対策はやった方がいいけれども、少子化対策がそれの答えにはならないので、社会保障改革はサボってはいけない、一生懸命やってくださいということでございます。
財政の問題もそうなんですけれども、最近は、この少子化とも関連しますけれども、人手不足というのが大変重要な問題で、お金があっても人がいないので介護はできないとかいうようなそういう世界に入っておりますので、社会保障改革というのはもう待ったなしなので、少子化対策云々とは関係なしにこれは頑張っていただきたいというふうに思います。
そういう意味では、人手不足を解消する一つの大きな政策の可能性があるのは、女性の労働力の活用というところでありまして、日本は女性の就業率は高まっていますけれども、問題はその中身ですね。中身がパートとか短時間の労働が多くて、なかなか女性の労働力がしっかり生かせていないというのが問題なのですが、それに対して非常に特効薬になり得るのは、年収の壁、支援強化策、年収の壁対策というものですね。今やっております年収の壁・支援強化パッケージというその補助金で何とかするというのは、税金の無駄遣い、大体、現状余り使われておりませんし、税金の無駄遣いとしか言いようがないです。
私はもうここに至ってはかなり大胆な改革をやっていただきたいと思っていまして、年金の第三被保険者制度自体を廃止するというのも考えていただきたいというふうに思います。
七百万人以上、第三号被保険者おりますけれども、ここに短時間労働とか無職にとどめられた女性たちがたくさんいるということでございまして、ですけれども、昨今物価も上がっていて、パートは賃金も上がっています。すぐ年収の壁を越しちゃうんですね。何にも補助金がなくても、もう壁を越して働こうという女性は結構いるんですね。そして、人手不足なので、中小企業の方も、もう壁を越してきてくれという人たちもたくさんいるわけなので、営々とやってきた第三号被保険者問題を解決するのはもう千載一遇のチャンスというか、今をおいてないということで、今なら反対は非常に少ないので、ここで思い切った改革をやるべき。
もちろん、専業主婦がお金が少なくなるとかそういう問題は生じます。でも、そこは、子育て対策の支援をきちんとやって、働き出せば補助金を出しますとか、子供を産んでいただければ給付金がいろいろ出ますというようなことで相殺することによってこの第三号被保険者問題を解決しやすい時期に来ておりますので、そこをしっかりやってほしい。
残り時間もう少ないんですけれども、そういう意味では、社会保障改革をいろいろやっていただきたいんですが、次期の財政検証については、特にもう待ったなしの時期が近づいておりますが、ここは、不作為に要注意ということでございまして、今のままでいくと国民年金の期間延長みたいなところで終わってしまう可能性が非常に大きいですね。でも、これは本当に年金の改革なのかという問題がありますよね。今までほかの私的な企業年金とかほかの個人年金とかやっていたものを国民年金に振り替えることによって、見かけ上、公的年金が少し増えるという制度にしようということなので、反対は少ないかもしれないけれども、これが本当に改革なのかというところですね。
そして、人口も、少子化で非常に進んでいるのに、国立社会保障・人口問題研究所がこの間出した人口予測だと、今までと余り変わらないという結果です。でも、中身は外国人が増えるから変わらないということであって、年金財政にとっては余り関係ないんですね。年金財政は、外国人が増えても保険料を余り払いませんので、少子化はやはり年金の危機なんですけれども、それを、外国人が増えるから人口が変わらないので年金改革やりませんというようなロジックをもし厚労省が立ててきたとしたらそこは要注意なので、先生方がしっかりそこはウォッチしていただきたいというふうに思います。
大体以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)
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