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辻健 ·東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授

参議院経済産業委員会(2024-05-07)での発言

第213回国会 ·第第7号号 ·6,283字
○参考人(辻健君) こんにちは。よろしくお願いします。東京大学の辻と申します。  私の方からは、CCSについて、配付資料、こちらに沿って説明させていただければと思います。  二ページ目、お願いします。  まず、CCSを取り巻く背景についてです。  IPCCの報告書にもありますが、大気中の二酸化炭素の濃度が温暖化を引き起こしているということは科学的にも明らかになってきています。さらに、その温度上昇に伴って、極域でのメタンガスの放出などによって温暖化が加速することが心配されています。この温暖化に伴うメタンの放出などにより、CO2を削減しても、すぐに気温が低下するわけではありません。またさらに、このような温暖化に伴って生じる地球上の様々な変化により、将来の気温を予測することが難しくなっていると言われています。私は、この将来の気温を予測することができないことが怖いと思っています。  このような背景がございますが、日本では、二〇五〇年のカーボンニュートラルの目標が設定され、それに向けて迅速にCO2を削減しようとするのは良い方向だと思います。  CCSは、このカーボンニュートラルを達成する上で重要な技術と位置付けられており、特に、ネガティブエミッション、CO2を積極的に大気から削減するという、そこに貢献できる数少ない技術とされています。また、IEA、国際エネルギー機関では、CO2の排出量の一五%ほどをCCUSで削減することが期待されており、国際的にもCCSの重要性は認識されています。  次のページ、お願いします。  次に、CCSの概要について説明させていただきます。  CCSは、CO2の排出源からCO2を回収して地下に入れる、貯留することにより大気中のCO2排出を減らすプロジェクトです。さらに、大気中からCO2を直接回収するDAC、これ、ダイレクト・エア・キャプチャーという技術ですけれども、その技術も開発されており、そのCO2を地下に貯留すれば、先ほどお伝えしたように、ネガティブエミッションに貢献できるということです。  また、CCSは、一見自然に反した作業、プロジェクトのように思われるかもしれませんが、実際には、CO2は天然の地下にも数多く存在します。例えば、火山や温泉などでは、CO2が地下から漏えいしているところは多々あります。また、人間は、産業革命以降、化石燃料を地下から取り出してエネルギーとして使ってきましたが、その際に排出されたCO2、つまり炭素を再び地下に戻すという作業であるCCSというのは、地球の炭素循環を考えると、それほど自然に反したプロジェクトではないと考えております。  次、お願いします。  様々なCO2の削減技術がございます。その中でのCCSの位置付けについて説明させていただきたいと思います。  CO2削減技術を評価する際には三つのことを考えるべきと私は授業とかで言ったりしていますが、一つ目はCO2の削減の達成時期です。もし魅力的なCO2削減策があったとしても、それでCO2を削減できるのが例えば百年後になるのであれば、それまでは別の技術を組み合わせてCO2を迅速に削減する必要があります。すなわち、タイムスケールを考える必要があるということです。二つ目はCO2の削減量で、現在は大量のCO2の削減が求められていると、そういう状況にあります。三つ目はコストです。  そんな中で、CCSはまず近未来的にCO2を削減できると考えられておりまして、実際に、二〇三〇年からCCSが開始される計画があります。また、CO2の削減量は大きいと考えられており、日本国内でも約百六十億トンのCO2を貯留する場所があるとされております。また、CCSは、CO2の削減の難しい非電力排出源からのCO2の削減できることも特徴の一つと言われています。しかし、コストや安全性など、CCS特有の課題もあります。これら課題について、この後少し紹介させていただきます。  次のページ、お願いします。  まず、CCSのコストです。CCSでは、一トン当たりのCO2を削減するのに一万円から二万円程度必要とされております。将来的には一トン当たり数千円程度になると考えられております。一方で、CCSは、カーボンプライシングなどの制度がない場合にはビジネスとしての成立は難しいですので、そのような制度設計が必要だと考えられます。  実際、アメリカでは、一トン当たりのCO2を削減するのに八十五ドルの税制控除があります。また、EUの排出権取引制度でも同程度の額が設定されています。これらの額というのはCCSに必要なコストと同等であり、CCSはコスト的にもこういう控除があれば現実的な方法であると言えると思います。  次のスライドをお願いします。  ここから安全性について説明させていただきます。ここは皆さん興味を持たれる方多いと思いますが、まずはCO2貯留サイトを決定する際の評価方法について説明します。  安定してCO2を貯留する場所を調べる方法に反射法地震探査というものがあります。これは、体の中を調べる医療用のエコーの巨大バージョンみたいなものです。この手法を使えば、地下の三次元的な地質構造や断層を可視化することができます。さらに、井戸を掘削して得られるデータを利用することにより、地層の不安定性に関係する水圧や応力を推定することもできます。このような探査、掘削データを用いてCO2貯留サイト周辺の断層の有無や、CO2が安定して貯留できるかどうかを事前に評価することが求められます。  なお、CO2地中貯留のサイトによって地質学的な状況が異なってしまいます。これが地球を相手にするCO2貯留の難しいところでして、サイトごとに地層の評価、最適なモニタリング手法を決める必要があります。つまり、CO2貯留サイトを決定する際には、その安全性を評価する機関、何らかの組織の役割が重要になると考えられます。  次のスライドをお願いします。  次に、安全性を担保する上で強く求められているモニタリングについてです。石油や天然ガスの開発では、地下の貯留層をモニタリングする技術が長い間使われてきました。特に、反射法地震探査を繰り返し実施して、その変化から地下をモニタリングする時間差地震探査というのが広く利用されてきました。この方法はCCSでも利用され、スライドの図にありますように、既に貯留CO2をモニタリングした実績もあります。  しかし、この手法にも不利な点があります。まず、コストが高いことです。そのため、このモニタリングデータを取得し続けることは難しく、急なCO2の漏えいに対応できないなどの可能性があります。  石油や天然ガスの開発では、貯留層の状態を知りたいときにだけモニタリングデータを取得すればよかったのですが、CCSでは、何らかの異常があればそれをすぐに検出する必要があり、連続的なモニタリング手法が求められるということです。  次のスライド、お願いします。  実際、貯留したCO2を連続的にモニタリングするシステムも開発されております。ここでは、ちょっと私の研究例を紹介させていただきますが、例えば、これまでのモニタリングでは、大型の震源装置が使われていたためコストが掛かりました。そこで、微弱なモニタリング振動を連続的に発振して、それらを足し合わせてモニタリング振動を遠くまで飛ばすスキームを導入することで、震源装置を小型化することができました。  この装置を、震源装置を小型化することによって、定常的にその震源装置をCO2貯留サイトに設置することができ、連続的なモニタリングが可能になると考えられます。またさらに、この震源の小型化により、低コストで環境負荷の少ないモニタリングが可能になると考えられます。  次のスライドをお願いします。  さらに、最新のセンシング技術、日本はセンシング技術得意なんですけれども、そういう技術もCCSのモニタリングに利用できます。スライドに示しますのは、井戸の中に設置した光ファイバーケーブルを地震計として利用する、そういう手法があるんですけれども、その結果ですが、地表に設置した先ほどの小型震源装置からのモニタリング信号が、深度一キロメートルの井戸の底、これCO2を貯留するサイトぐらいなんですけれども、その深い場所まで伝達している、到達していることが分かります。つまり、これらの方法で、貯留したCO2を連続的にモニタリングできるというふうに考えることができます。  次のスライドをお願いします。  次に、安全性の中でも特に議論になることの多い誘発地震について説明します。  まず、地震が発生する条件について説明します。  スライドの上にある式を見ていただければと思いますが、これは断層の中に水がない場合です。この場合、数式の左辺の剪断応力、タウと書いていますが、これは断層を滑らそうとする力に相当します。これが式の右辺にある摩擦抗力より大きくなったときに断層が動き、地震が発生します。  しかし、一般的には、下の模式図にあるように、断層は水で満たされています。この断層の中の水の圧力が高い場合、その水が断層を押し広げようとします。つまり、断層を押し付ける力を打ち消すように水圧が掛かるわけです。その場合、断層の摩擦抵抗、式の右辺ですね、そこにマイナスpfとあるのが水圧の部分ですが、この部分が、右辺が小さくなり、左辺の剪断応力が同じでも断層が動いてしまうと、そういうロジックです。  CCSの場合、CO2の圧入によって水圧が高くなったときに誘発地震が発生する可能性はゼロではないと言えます。しかし、CCSの場合には、隙間の多い岩石にCO2を圧入しますので、水圧自体が高くなりにくいというふうに考えられています。  また、CO2貯留サイトは浅いため物質が軟らかく、そもそも断層を動かそうとする力、これタウという、剪断応力自体が蓄積されにくいという、そういう特徴もあります。  なお、CO2貯留サイトを事前に評価する場合には、その場所の剪断応力と摩擦抵抗を物理探査データなどから推定し、それらの関係、つまり、このスライドにある式を使って、地震の発生のしやすさを示す値、滑り係数を計算することができます。この係数を計算することで、地震が発生しにくい貯留地点を見付けることもできます。  次のスライドをお願いします。  前のスライドで説明したとおり、断層の中の水圧が高くなれば地震が発生しやすくなります。ここでは、この水圧の情報を使って、自然地震と誘発地震を分離する方法と誘発地震のリスクを低減する方法について説明します。  これらの方法では、潮汐、海の満ち引きや遠地地震、遠くで発生する地震などに伴う自然の水圧変化を使います。実は、自然の状態でも地下の水圧が常に変化しています。そういう水圧の変化が地震を誘発、自然地震を誘発させたりします、することもあります。もしその自然の水圧変化がCO2地中貯留に伴う人工的な水圧変化より大きければ、その周辺で発生した地震は自然地震と考えることができます。  この手法を長岡のCO2貯留サイトと、貯留と、そのときに発生した中越地震の関係に適用した結果をスライドの下の方に示しておりますが、この結果から、貯留サイトから数百メートル離れれば、自然の水圧変動の方がCO2貯留による人口的な水圧変動より大きくなることが分かります。  中越地震の震源はこのCO2貯留サイトから十キロ以上離れておりますから、その震源では自然の水圧変動の方が大きいということになり、中越地震は自然地震と評価することができます。この方法、非常にシンプルなんですけれども、データに基づいて地震を評価できる点では重要と思われます。  さらに、このCO2貯留に伴う水圧変動を自然地震より、自然の水圧変動より小さくするように制御してやれば、誘発地震のリスクを低減することもできると考えられます。  次のスライドをお願いします。  次に、住民の理解についてです。  CCSの実施には、国民へのCCSの認知度を高める必要があると思います。私は、微力ながら、小中高生や一般の方への講義などを通してCCSのことを伝えようとはしておりますが、多くの方がCCSのことを知らないのが現実です。突然CCSが近くで行われることがないように、もっと国民に対する理解を深めていただくそういう努力、私も頑張りますけれども、そういう試みが必要だと思います。  次のスライドをお願いします。  次に、人材育成です。  二〇五〇年には年間一・二億トンから二・四億トンのCO2を貯留することを目標にしていますが、その場合、数百本の井戸が必要になるとされています。その際、このプロジェクトを管理する専門人材が必要になります。特に、CCSを理解するには幅広い知識が必要になると考えられます。米国などの大学ではCCSのコンソーシアムがつくられ、CCSプロジェクトとともに専門人材の育成が進める動きがあります。日本でも産官学が連携する取組があってもよいように思います。  なお、東京大学では、CCSに関する社会連携講座を新たに構築しまして、その講座を利用して人材育成を行う試みもスタートしつつあります。  次のスライドをお願いします。  ここでは、CCSの将来像について少し話をさせていただきます。  CCSは化石燃料のための技術と考えられることがよくありますが、CO2貯留技術が確立されればネガティブエミッションが可能になります。そこで、このスライドに示されるような新しいCCSの形を考えることもできます。DAC、ダイレクト・エア・キャプチャーでは大気中からCO2を回収するというのをお伝えしましたが、この手法では、純度の高いCO2を回収することは苦手です。しかし、回収されたCO2に含まれる不純物というのは、大気中からですから、窒素や酸素といった環境に優しい物質ですので、それであれば、純度の低いCO2であってもそのまま貯留できる可能性があります。この手法が良いのは、電気さえ供給されればCO2の回収、貯留をどこでも実施できることです。つまり、場所の制約がなくなり、人里離れた枯渇油田などの砂漠などでもCO2を減らすことができるという形です。この装置を使って様々な場所でCO2を大気中から除去するようになれば、ネガティブエミッションが現実的になってくると思います。  最後のスライドをお願いします。  CCSでは環境影響などのネガティブな側面も議論されることがありますが、カーボンニュートラルという大きな目標を達成するためには、広い視野に基づく議論が必要だと思っています。特に最近では、デジタル化が進んだのか、多くの場面でデジタル的にゼロイチ、白黒で決められようとする傾向があるように思います。この場合、多くの因子を統合して考える、すなわちシステム化して考える必要のあるCO2削減策を議論することが難しくなってしまうことがあります。人間的な判断、弾力性のある判断が求められると感じております。  以上になります。ありがとうございました。

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