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水野紀子 ·白鴎大学教授

参議院法務委員会(2024-05-07)での発言

第213回国会 ·第第9号号 ·4,475字
○参考人(水野紀子君) 白鴎大学で民法を担当しております水野紀子と申します。  本日は、このような機会をお与えくださいまして、本当にありがとうございました。  今日は、法制審議会家族法制部会の審議に参加した一研究者としての立場から、今回の法案についての個人的な意見を申し上げさせていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。  家族法制部会では、令和三年二月の法務大臣からの説明を受けてから、約三年間を掛けて、子の利益を確保する観点から、離婚及びこれに関連する制度に関する規定などの見直しについて調査審議を行ってまいりました。私は、三十年ほど前の民法部会身分法小委員会の頃から法制審議会の家族法改正を審議する部会に多く参加してまいりましたが、激しい熱のこもった、かつ慎重な調査審議が行われた点では、この部会が筆頭であったように思います。  この部会では、家族法領域の最大の難問と言われる離婚時の子の奪い合いという問題を審議対象に含んでおりましたから、子の立場、同居親、別居親、それぞれの立場で痛切な経験と意見をお持ちの方も多く、これまでにない多量の、八千件を超えるパブリックコメントが寄せられました。参考人ヒアリングも、それぞれの当事者の立場だけではなく、DVや児童虐待の支援者や専門家など、非常に多くのヒアリングを実施してお話を伺いました。パブリックコメントに寄せられた御意見も、事務当局がまとめて資料としたほか、各会議の際には意見の元本が会議室に備え置かれて委員たちが閲覧しており、参加した委員は、とりわけ離婚後の子をめぐる紛争について、国民から寄せられた意見の痛切さを踏まえて議論をしてまいりました。  そして、これらの御意見は、それぞれに真摯で痛切なものではありましたが、同時に、多様に分かれておりました。暴力のある生活からようやく逃げて離婚できて、貧しいながらも平和な母子家庭を営んでいるのに、共同親権を申し立てられたらとても立ち向かえないという恐怖を語られる御意見がありましたし、逆に、夫としゅうとめに子供を奪われて家を追い出されてしまい、子供の環境が不安で、つらい焦燥感に駆られているという御意見もありました。今挙げましたお母さんの例のみならず、最近は、共働きで夫も育児に実質的に参加していたのに、意に反して子供との接触を断たれるつらさを言われるお父さんの例もありました。  また一方では、夫婦としては失敗したけれども、両親としては協力してやっていきたいと二人とも思うけれども、単独親権では親権者の心変わりを恐れて離婚の話合いが進まない、是非共同親権の道を開いてほしいという御意見もありました。  この問題は、子供の福祉の根幹に関わるもので、かつ、どの国でも非常に難しい問題となっています。しかし、日本では殊のほか難しさが深刻です。つまり、DV対策や児童虐待対策が非常に遅れているからです。  婚姻中の共同親権の段階から、社会によって救出されるべき子供たちが暴力のある家庭の中で生きています。資本主義の進展によって家庭が孤立するようになった時代以降、西欧諸外国では、積極的なアウトリーチを含めて家族への社会福祉的介入を強めてまいりました。急速に近代化した日本は、このような介入を構築することなく、家族法においても家族の自治を最大限に認めてきました。つまり、当事者たちが自分たちだけで決定し、自分だけで相手と闘うしかない家族法でした。そこには、救われるべき当事者や子が守られる保証はありません。  本改正案は法制審議会の答申を踏まえたものであると認識しておりますが、答申には附帯決議が付いております。この附帯決議は、改正法の内容の適切な周知を求めること、各種支援についての充実した取組を求めること、家庭裁判所における適切な審理を期待すること、改正法の施行状況や各種支援などに関する情報発信を求めること、これらの事項の実現のため関係府省庁などが子の利益の確保を目指して協力することなどが盛り込まれています。民法などの改正が実現した際には、こうした附帯決議の趣旨に沿って、政府及び裁判所において適切な環境整備に向けた取組が行われることを期待しております。  さて、本改正案の改正項目としては、親子関係に関する基本的な規律、親権、養育費、親子交流、養子縁組、財産分与などがございます。これらについて詳しくお話ししますと許された時間を超過してしまいますので、特に強調したい点のみ簡単にお話しいたします。  まず、親子関係に関する基本的な規律ですが、本改正案では八百十七条の十二において、親権の有無にかかわらず父母が負うべき責務などを明確化しました。ここには子の人格を尊重する責務が挙げられており、子の意見の尊重も含まれると解釈されるべきであると考えております。  ただし、離婚後の親権者の決定の場面において子の意見の尊重を直接的に特に書き込むかどうかは、法制審で議論になり、私は一貫して反対いたしました。親を選ばせるのは残酷な選択を強要することになりますし、親は他方の親を悪者にする働きかけをするでしょう。子供の人格を尊重することにむしろ反する結果を招くと考えます。もちろん、子の心情や状況は丁寧に調べる必要があり、子供が自分を尊重されたと感じられるように適切に説明する必要性は言うまでもありませんが、君の意見で決めるとか決まったとか言ってはならないことだと思います。  次に、親権に関する規律の見直しです。  離婚後の単独親権を改め、共同親権も選択できるようにしてあります。先ほどパブコメの話などでも申しましたように、これが最大の争点でした。  裁判所が親権者を定める場合の考慮要素に関しては、裁判所が、子の利益のため、父母と子との関係や父と母との関係その他一切の事情を考慮して判断しなければならないこととした上で、父母の双方を親権者として定めることにより子の利益を害すると認められるときは、必ず父母の一方を親権者と定めなければならないこととされております。  この父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときについては、DVや虐待などがある事案を念頭に置いた例示列挙がされており、こうした事案に対する懸念に対処できる規律になっています。  ただ、個人的には、この例示列挙にこだわらず、一切の事情を重視した実務の運用に期待したいと思っております。余り育児に関与してこなかったから、本音では親権にはそれほどこだわらないが、DVだと評価されたくないという理由で共同親権を主張する当事者がおられることを心配します。  共同親権では、一方の親が他方の親権行使に妨害的に同意せず、教育や医療の場面などで困るのではないかという危惧が言われます。もっとも、現行民法でも、父母双方が親権者である場合における親権行使のルールなどが必ずしも明確ではありません。  本改正案では、父母双方が親権者である場合においても、子の利益のため、急迫の事情があるときや監護及び教育に関する日常の行為については単独で親権を行使できることとした上で、親権行使について父母の意見が対立した場合の解決手続を整備することとしています。  この急迫の事情については、適時の親権行使をしないと子の利益を害するおそれがあるような場合と解釈されるべきであり、必ずしも狭い概念ではないと考えております。常識的な線で運営されるのではないかと思います。  むしろ、教育や医療の場面で本当に必要な親権行使が行われない場合については、現状でも現場は子供のために努力しています。医療ネグレクトに対しては、親権停止という手続も利用されますが、重過ぎて利用しにくいため、医師が推定的同意や事務管理の法理で子供を救おうという動きがあります。  文科省と厚労省は、児童養護施設に入所中の子が高校進学について親の同意を得られないときに柔軟に対応して進学させるように通達を出しています。子供を不当な親権行使から救うこのような現場の努力と整備にこそ、政府や関係官庁が一丸となって取り組んでいただきたいと思います。  次に、養育費に関する規律の見直しです。  養育費の確保が重要であることは異論のないところです。西欧諸外国では、刑事罰の制裁を科したり、直接税取立て手続にのせたりしております。本改正案では一般の先取特権を付与しています。この改正により、養育費の債権者は、一定額の範囲で一般の債権者に優先して弁済を受けられるほか、債務名義を取得していなくても民事執行手続の申立てをすることができるようになります。また、養育費の定めをすることなく協議離婚をした場合に対応するため、法定養育費の仕組みを設けています。このほか、裁判手続における収入などの情報の開示命令の仕組みや、民事執行手続に関し、一回の申立てにより複数の手続を連続的に行うことができることとするなど、債権者の負担を軽減する仕組みを設けることにしています。このような改正により、養育費の支払確保の実効性を高めることができると考えております。  次は、親子交流に関する規律の見直しです。  親子交流については、子や同居親の安心、安全を確保した上で、適切な形での親子交流を実現できるような仕組みを設けることが重要です。本改正案では、現行民法において父母が婚姻中に別居している場面における親子交流に関する規律がないことから、八百十七条の十三で明文の規律を設けています。また、家庭裁判所が事実の調査として親子交流の試行的実施を促すことができる旨の規律を設けることにしております。試行的実施の結果については、その後の家庭裁判所の判断や調整の資料とされ、適切な親子交流の実現に資することになると考えております。このほか、七百六十六条の二で、家庭裁判所が祖父母等の親族と子との交流に関する定めをすることができることとしております。  養子縁組に関する規律の見直しにつきましては、養子縁組については、養子縁組がされた後にその子の親権者が誰になるのかを明確化し、また、親権者である父母間で十五歳未満の子の養子縁組の代諾に関する意見対立が生じた場合の調整のルールを整備するものです。  最後に、財産分与に関する規律の見直しです。  財産分与については、財産分与を請求することができる期間を現行法の二年から五年に伸長することとしております。また、財産分与において考慮されるべき要素を明確化することとしているほか、裁判手続における財産情報の開示命令の仕組みを設けることとしています。周知のように、日本の母子家庭の貧困率は非常に高いものとなっています。この改正によって、幾らかでも是正できることを期待しております。  以上でございます。御清聴くださいまして、どうもありがとうございました。

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