○参考人(阿部達也君) 御出席の皆様、こんにちは。ただいま御紹介にあずかりました青山学院大学国際政治経済学部の阿部達也と申します。
本日は、このような場で意見を述べさせていただく機会をいただき、誠にありがとうございます。
早速レジュメに沿って進めさせていただきます。
スライド二枚目に目次を入れました。「はじめに」に当たる次のスライドでは、まず問題の所在を明らかにします。続く本論は、二つに分けて、前半でFMCT構想の意義について、後半ではFMCT構想の課題について、それぞれ議論していきます。最後の三十枚目のスライドでは、地道な努力が必要なことを強調して、「おわりに」に代えることといたしたいと思います。
スライド三枚目。FMCTに関する問題は、端的には、条約の早期締結の必要性が国際社会において広く共有されているものの、依然として交渉さえ開始されていないという点に尽きると思います。交渉の開始を妨げている要因は何か、その要因を克服するためにどのような取組が考えられるのか、短期的に克服できない場合にはどのような代替的措置が考えられるのか、これらの論点を念頭に置きまして本論に入りたいと思います。
スライド四枚目。FMCTは、平たく申しますと、核兵器の原料となる物質の生産を禁止する条約です。核廃絶に向けた次の論理的なステップという表現がFMCT構想の意義をよく表していると思います。核兵器を造るためには原料が必要ですので、その原料の生産を止めて核兵器の増加を断ち切ろうという発想です。このステップが実現すれば、更に核兵器を減らしていくという道筋が見えてくるでしょう。
現時点で核兵器を保有しているか、又は保有していると考えられている国は、このスライドの下に示した九か国でございます。これらがFMCTの直接利害関係国ということになります。
スライド五枚目。FMCTは、核廃絶に向けた様々な措置の中でも、条約という法的拘束力のある措置と位置付けられます。特に核軍拡の制限という文脈では、質的な制限を目的とする包括的核実験禁止条約、これとの対比において、量的な制限を目的とするものと捉えることができます。
スライド六枚目。FMCTの目的が核兵器の量的増加を止めるという点については各国の間で認識が共有されているものと思います。しかしながら、それでは条約が何をどこまで規制するのかという問題については従来から二つの立場が対立してきました。そして、この対立が交渉の開始を阻む大きな要因の一つとなっています。端的に申しますと、左側のように、条約の対象を、生産の禁止だけでなく、これまでに核兵器用に生産された在庫、ストックの規制も含めるという広義論と、右側のように、条約の対象を生産の禁止のみに限定する狭義論の二つの立場があります。この二つの立場は一九五〇年代から主張されてきたもので、時代によって主張する国は変わってきました。
スライド七枚目。一九五〇年代の核兵器用核分裂性物質の規制に関する議論の中で広義論を展開していたのは西側諸国でした。この主張は国連総会決議に反映されたのですが、東側諸国からは反対票が投じられました。
スライド八枚目。一九六〇年代前半に、米ソ両国は狭義論の立場で足並みをそろえます。他方で日本は、当時のジュネーブの交渉枠組みである十八か国軍縮委員会の場で広義論の立場を取っています。そして、一九七八年に開催された国連軍縮特別総会が最終文書の中で言及したのは狭義論でした。最終文書はコンセンサスで採択されていますので、参加国の受入れ可能な最低ラインが狭義論だったということになると思います。
スライド九枚目。FMCTの今日的な議論は、一九九三年九月のクリントン大統領国連総会演説を起源としています。FMCTの交渉開始を提案するもので、三か月後の国連総会決議につながり、当該決議はジュネーブの交渉枠組みである軍縮会議に対して交渉開始を勧告しました。ここで留意すべきは、クリントン大統領提案も国連総会決議も生産の禁止のみに言及していたということです。
議論の場はジュネーブの軍縮会議に移ります。当時のシャノン・カナダ大使が特別調査官として調整に当たり、特別調整官として調整に当たり、一九九五年三月にまとめられたのがシャノン報告書です。この報告書では、条約交渉のために新たに設置される特別委員会のマンデートとして生産の禁止に言及し、さらに、いかなる問題を提起することも排除しないことに合意したという補足の一文が加わりました。議論の対象は、マンデートそれ自体に着目すれば生産の禁止に限定されるのですが、補足の一文を含む報告書全体から見れば生産の禁止に限定されないという解釈が成り立ちます。
このいわゆるシャノン・マンデート又はシャノン報告書は、その後の多数国間の場で引用され、ある種の駆け引きが展開されることになります。具体例を示したのがスライド十枚目と十一枚目でございますが、時間の関係で省略させていただきます。
スライド十二枚目。ここまで、広義論と狭義論が一九五〇年代から存在している考え方であることを確認し、一九九三年以降の今日的な議論においてもこの二つの立場が引き続き存在していることを明らかにしてきました。現在は、核兵器を保有する国の中でパキスタン一か国が孤立を恐れることなく強硬に広義論を唱え、これを中東圏、イスラム圏、中南米諸国が支持する一方で、パキスタン以外の核兵器保有国が狭義論に執着しているという対立の構造になっています。
スライド十三枚目。ここから、本論の後半として、FMCT構想の課題について考察していきたいと思います。既に言及のとおり、FMCTの実質的な対象国は九か国です。FMCTによって生産が禁止されることになるであろう高濃縮ウランとプルトニウムの各国の推定保有量を表にまとめてみました。
NPTで核兵器の保有が認められた核兵器国五か国は、全て自発的な生産停止、いわゆる生産モラトリアムの状況にあると見られています。特に、米、ロ、英、仏の四か国は、自ら生産モラトリアムを宣言しています。これに対して、それ以外の四か国は生産モラトリアムとは無縁です。FMCTは、理想的にはこれら九か国全ての合意を得て成立させたいところです。
スライド十四枚目。それでは、核軍縮・不拡散をめぐる現状はそのような合意を可能なものとするのでしょうか。ターニングポイントを一九九五年のNPT無期限延長決定に置き、冷戦終結後の核軍縮・不拡散について簡単に振り返ってみたいと思います。
スライド十五枚目。客観的に見れば、一九九〇年代前半は軍縮全般について様々な肯定的な進展がありました。冷戦終結直後だったからこそ政治的に可能だったという側面は否定できません。他方で、法的にはNPTの延長問題が大きく影響していたと考えます。一九九五年のNPT延長・運用検討会議において、無期限延長を確保するために様々な措置が繰り出される状況だったのです。一九九三年に国連総会でFMCTの交渉開始が勧告されたことは、この文脈において理解されるべきと思われます。
スライド十六枚目。一九九五年以降、核軍縮・不拡散は、若干の進展は見られつつも全体的に見れば停滞し、さらに近年ではむしろ後退しているという状況です。多数国間条約であれ、米ロの二国間条約であれ、様々な条約が機能不全を起こしており、FMCTを含む新たな条約の作成はより困難になっています。
御承知のとおり、NPT運用検討会議は二〇一〇年を最後に二回続けて最終文書を採択できず、包括的核実験禁止条約の発効は全く見通せていません。中距離核戦力全廃条約は失効し、新START条約は運用停止に陥っています。
スライド十七枚目は、核軍縮交渉を義務付ける条文を持つNPTに拘束されていてもいなくても核兵器保有量が増えている状況の生じていることを示すデータです。
スライド十八枚目は、具体的な上限を設定した米ロ二国間条約が運用停止に追い込まれると、核兵器の現状が一気に不透明になってしまうことを示すグラフです。
このように、現状は少なくとも政治的に見れば新しい条約の作成という雰囲気ではなく、また、一九九〇年代前半のように核軍縮・不拡散の進展を促す法的な要因も存在していないのです。
スライド十九枚目。ここからは法的な文脈に焦点を当てて、FMCT構想に内在する課題を挙げてみたいと思います。
FMCTは法的拘束力のある条約です。それゆえ、条約法という条約に関するルールを規律する国際法の分野の一般的な又は特別の規則が適用されることになります。
条約とは、特に多数国間条約とは、多数国間の交渉によって成立し、発効要件を満たして初めて効力を発生し、拘束されることに同意した国のみを拘束するものです。その意味では、交渉の段階で何を優先させるのかが重要になると考えます。
スライド二十枚目。FMCTの交渉開始を妨げている要因として必ず指摘されるのが、ジュネーブの交渉枠組みである軍縮会議におけるパキスタンの反対です。
パキスタンは、FMCTが核分裂性物質の在庫量の不均衡を固定化させるものであるとして、軍縮会議での交渉開始に反対してきました。孤立を全く恐れないその姿勢は従来から一貫しています。パキスタンの戦略が成功している背景には、交渉の場を軍縮会議とすることに幅広い支持があることと、軍縮会議の意思決定が手続事項を含めてコンセンサスにより行われることが挙げられます。
一般論として、コンセンサスで条約が成立すれば、多数の参加が得られて条約の普遍性が高まると思います。もっとも、事実上、どの国も拒否権を持つことになりますので、成立に至るまでに時間が掛かるでしょう。これに対して、多数決による意思決定を認める場合は、成立は相対的に容易になりますが、条約の普遍性を得るのは難しくなります。
これまで成立した軍縮に関係する条約を分類するとスライドのようになります。現状を打開する案があるとすれば、それは軍縮会議の手続規則を変更するか、交渉の場を軍縮会議以外に移すかのどちらかです。どちらも得るものと失うものがありますので、判断は非常に難しいものとなるでしょう。
スライド二十一枚目。実際に条約の交渉が開始された場合、既に取り上げた規制の対象にとどまらず、義務や検証制度など様々な論点について合意に至る必要があります。実際には、軍縮会議に提出された各国の作業文書、条約案、軍縮会議の非公式な会合における意見交換、二〇一〇年代に取りまとめられた政府専門家グループとハイレベル専門家準備グループの報告書などを通じて、FMCTに盛り込むべき要素はほぼ出し尽くされているという状況でもあります。
スライド二十二枚目は、条約の発効要件が厳し過ぎると、条約それ自体が発効しない可能性のあることを示したものです。時間の関係で詳細は割愛させていただきます。
スライド二十三枚目は、条約が成立したとしても、条約への参加は必ずしも保証されないことを示したものです。
スライド二十四枚目。以上のように、FMCTにはFMCTが条約であることに内在する様々な課題があることをお分かりいただけたかと思います。これらの課題を克服することは容易なことではありません。それでもやはり条約方式を追求する必要は認められると考えます。
その理由として、第一に、無差別、多数国間、国際的、実効的に検証可能な条約というシャノン・マンデートに明示されたコンセプトが広く受け入れられているということ、第二に、条約が法的拘束力を持つことの意味が各国の間でよく理解されているということ、第三に、複雑な対立点は交渉を通じて解決されていくものだということを挙げたいと思います。したがいまして、あくまでも条約方式を追求するのであれば、条約に後ろ向きな国の懸念を解消させるための努力が重要になると考えます。
スライド二十五枚目。残念ながら、現状においては、少なくとも短期的には条約方式の追求は難しいと言わざるを得ません。このような状況にあっては、暫定的に代替的なアプローチとして非拘束的な措置に活路を見出すべきではないでしょうか。
スライド二十六枚目。非拘束的な措置は、その柔軟性に大きな特徴があります。法的義務を課すものではございませんので、核兵器を保有している国に受け入れられやすいだろうという希望的観測が働きます。実際に、NPT運用検討会議や国連総会決議によって履行の求められている措置は全て非拘束的措置です。措置の履行を通じた国家間の信頼醸成の向上や条約に後ろ向きな国の懸念の解消が期待されます。
スライド二十七枚目。具体的には、核兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムに関して、既に宣言している国にはその継続を求め、まだ宣言していない国には宣言を求めます。また、核兵器用核分裂性物質の生産施設の廃棄や転換を奨励します。さらに、核兵器用核分裂性物質の在庫に関する情報提供を要請します。これらの措置は、NPT運用検討会議の最終文書と国連総会決議のいずれか又は両方で既に設定されているものです。
スライド二十八枚目。問題は、これらの措置の履行を監視するメカニズムが制度化されていないことです。このようなメカニズムが導入されれば、さきのスライドに挙げたような措置の意義はより高まることでしょう。
スライド二十九枚目。非拘束的措置の留意点として二点を挙げておきたいと思います。
一点目は、拘束力がないので、履行に対する動機付けを欠くことです。特に、措置の導入に反対した国からは完全に無視される可能性があります。例えば、中国は従来からモラトリアム宣言に否定的で、NPT運用検討会議では最終文書にこの要素を含める提案に常に反対してきました。もっとも、非拘束的措置はそもそもそういうものだと思います。むしろ、未履行の状況が公になることで履行していない国に政治的な圧力が掛かる、そのことに意義を見出すべきではないでしょうか。
二つ目は、措置の暫定的な性格が恒久化する可能性のあることです。条約が成立しないのであれば、それもやむを得ません。それでも、措置が履行され、核兵器用核分裂性物質の生産が停止されている限り、条約に拘束されている場合と同じような状況が出現することになりますので、ここに肯定的な要素を見出すべきと考えます。
最後のスライド、三十枚目です。最後のスライドでは、地道な努力が必要なことを強調して、「おわりに」に代えたいと思います。
FMCTは条約です。条約方式には大きな意義が読み取られますが、同時に乗り越えなければならないハードルが多いことも事実です。あくまでも条約の成立を目標に掲げるのであれば、交渉のための環境づくりを粘り強く進めていく必要があります。
これに関連して、軍縮会議における交渉を追求し続けて何の成果も得られなかった、何の進展もなかった空白の三十年、これをどのように捉えるべきか。交渉の別の場を選ぶ政治的な決断に踏み出すべきなのか。これは、FMCTの内容を大きく左右し得る論点であるだけに、非常に難しい判断が迫られることになるかと思います。
このような状況の中で、少しでも何らかの進展を見出そうとすれば、暫定的な代替アプローチを真剣に模索すべきであり、既にその段階を迎えているのではないかと考えるところでございます。
以上で意見の陳述を終わらせていただきます。
御清聴、誠にありがとうございました。
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国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=阿部達也
MCP: search_diet_speeches(speaker="阿部達也")