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宮家邦彦 ·キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問

参議院予算委員会公聴会(2026-03-24)での発言

第221回国会 ·第第1号号 ·5,529字
○公述人(宮家邦彦君) 本日は、参議院予算委員会の公聴会、公述人としてお招きいただき、誠にありがとうございました。  本来であれば、イラン情勢ですとかいろいろ関心の多いものがあると思うんですけれども、必要があれば後ほど御質問にお答えすることにいたしまして、今日は、僣越ながら、私が現下の国際情勢をどのようにして見ているのか、その上で、日本の安全保障、外交はどうあるべきなのか、卑見を申し述べたいと思っております。  現時点で私の仮説を今用意してまいりました。ここにお配りいただいた発言要旨にもありますけれども、仮説の一は、この幸せな過去の八十年間、安定して、予測が可能で、何となく幸せだったこの戦間期、戦間期というのは大戦と大戦の間ですよね、ちなみに第一次大戦と第二次大戦の間は二十一年、今回は八十年続いたんですね。しかし、この八十年が終わってしまったのではないか、終わりつつあるのではないかという仮説でございます。  二つ目は、もしそうであれば、我々は発想を変えなきゃいけなくなっているんじゃないのか、従来の常識にとらわれない新しい国家戦略が必要なのではないかというこの二点について、なぜ私がそう考えるかをお話ししたいと思っております。  まず、このお手元にある紙で言いますと、一番目、地球規模の話なんですが、グローバルな視点から始めたいと思います。  地政学というのは私好きじゃないんですけれども、今、グレートゲームという概念があるそうです。元々は十九世紀の中央アジアをめぐるイギリス帝国とロシア帝国の対立、これをグレートゲームと呼んでいたんですけれども、大きな意味でいうと、ユーラシア大陸のハートランドというのが真ん中にありまして、ハートランドのランドパワー対その周辺にあるシーパワーの争いというふうに見ることも可能だと思っています。  もしそうだとすると、私はこれが、十九世紀の最初のイギリスとロシアの両帝国の対立がその後どうなったかと。イギリスの代わりにアメリカが入ってきた。そして、ロシアはロシア改めソ連になって、そして次の対立が生まれました。これを我々は普通、冷戦と呼んでおります。私はこれをグレートゲームパート2と考えております。  その後、ソ連がまたロシアに戻りました。しかし、ウクライナ戦争で疲弊をしました。代わって、ユーラシア大陸の中央部ではロシアに代わって中国が台頭しつつあるのではないか。それに対してアメリカが牽制を始めたのではないか。このような発想で私は今、物事を見ております。あくまでも仮説です。この米中の対立というものを私はグレートゲームパート3とあえて名付けて、勝手に名付けさせていただいております。  パート3は、三番だからいいということではありません。実は、大きな問題がございます。グレートゲームパート3の最大の問題は、過去、先ほど申し上げた八十年間の国際的なルール、先ほど申し上げた、幸せで、安定した、予見可能な、しかし大義名分は、自由で、民主的で、オープンで、ルールに基づく国際秩序、これが過去八十年間何とか曲がりなりにも保たれてきたわけですが、このグレートゲームパート3ではこの八十年の幸せな戦間期が終わっているのではないか。冷戦の時代もこの八十年の間に行われましたから、まだ制御が可能だったんですが、私は今回はちょっと違うのではないか。  そして、言うまでもないことですが、この八十年間の国際ルールというのは、これは大国というよりも、むしろ日本を含む中小国にとって有利な制度だったわけですね。それがなくなる、もしなくなるとでもなれば、日本は非常に厳しい立場に置かれるのではないかというふうに考えているわけでございます。  続きまして、二ポツ目の地域情勢に移りますが、グレートゲームパート3で最大、私が最も懸念しているのは何かというと、この八十年間はうまく機能したかもしれない抑止効果が薄れていくのではないかという仮説でございます。  グレートゲームパート3が始まるとほぼ同時に、世界の各地で地域紛争、戦争が再び起き始めたのはこれ決して偶然ではないと思っています。自由で開かれた国際秩序が揺らぐに従って、戦争若しくは紛争の抑止力が機能しなくなっているのではないか。その典型例がウクライナではないのか。  我々は、ウクライナでロシアの抑止に失敗したんですね。そして、ガザでは、実は我々はハマスとイランの抑止に失敗したのかもしれない。さらには、言い方は難しいですけど、イスラエルを抑止することにも失敗したのかもしれません。もし次の抑止の失敗が、中東、欧州ではなくて、インド太平洋地域だったら大変なことです。こうならないことをもちろん祈るしかないのでございます。  じゃ、何でこんなことが起きちゃったのかというのが次の三番目にあります国内情勢の問題でございます。  これ、各国の内政と関連していると私は考えています。冷戦時代、この八十年間の幸せな時代には、冷戦が少なくとも終わるまでは西側諸国の民主主義というのは、良くも悪くもと言ったら失礼ですけれども、中道というよりも、穏健な左派と穏健な右派が、これ両方とも政治エリートなんですね、各国では、皆さんも含めてですけれども、その政治エリート同士の切磋琢磨で政権交代を行うことで民主主義が保たれてきたんですが、これが九〇年代以降、状況が変わってしまいました。  なぜかというと、IT革命が起きた、そして弱肉強食の資本主義が戻ってきた。その結果何が起きたかというと、格差が広がったんですよ。格差が広がると、負け組と勝ち組に分かれますよね。そして、その負け組というか、忘れ去られた人々、この格差の拡大で犠牲となった忘れ去られた人々の不満ないし怒りが、これの受皿ができたんです。これが左右の極端な、場合によっては特に極右のポピュリズム若しくは自国第一主義になっていくんだと私は思っています。これはもう既にドイツでも見られる、フランスでもあり、イギリスにもあり、アメリカでももちろんあります。そして、同様の現象がもしかしたら失われた三十年を経験した日本でも起きているのかもしれない。決して例外ではないのではないかというのが私の仮説でございます。  このような時代になりますと、各国で、今までのように理性が優先するんじゃなくて、物理的な力が優先したり、場合によっては啓蒙主義的な国際主義に対する支持、関心というものがどんどんどんどん衰えていく。その結果何が起きるかというと、それは我々にとっては非常に有利な制度だったんですけれども、それに代わりまして、国力が衰退していくかもしれない大国、若しくはこれから更に国力を伸ばそうとしているような大国同士で、そんなことを夢見る大国同士で国際ルールの書換えが始まっているのではないかというふうに私は恐れているわけでございます。それが国内情勢に関する私の見方でございます。  続きまして、じゃ、インド太平洋はどうなのかと。一番御関心が高いと思うんですが、もちろんこのインド太平洋についても、台湾問題等々いろいろ御質問があるかもしれません。そのときには個々のことを御説明することとして、私が一つ申し上げたいのは、重要なことですが、一昔前と違って、インド太平洋が独立した別個の地域ではなくなったということです。欧州にも中東にもそしてインド太平洋にも地域はございますけれども、昔はこれ別々だったんですね。別々でよかったんです。  しかしながら、今何が起きているかというと、ロシアはイランの無人機をウクライナで使っているんです。そして、ロシアは北朝鮮の兵隊をウクライナで使っているんですよ。つまり、中東も欧州もそしてインド太平洋も、実はもう一つの、戦域という言葉を使わせて、あえてシアター・オブ・オペレーションというんですが、戦域になりつつあるんだというのが私の仮説でございます。  そうなりますと、このイラン情勢もやっぱり気になるところなので、ちょっとだけ一言申し上げようと思います。エネルギーと物価については今日もう一人御専門の方がいらっしゃるので、私はイラン戦争の停戦の可能性について一言述べたいと思います。私の結論は非常に簡単で、非常に悲観的です。外れるといいなと思っています。  仮にアメリカとイランの停戦があったとしても、イスラエルとイラン若しくはイランの代理勢力との戦いは、残念ながら続く可能性は高いと思っています。ホルムズ海峡を含む湾岸地域の情勢というのは、恐らく当分不安定な状況が続くだろうと。もちろん、石油価格もそうですけれども、それ以上に地域情勢が安定に向かわないのかなというふうに思っています。  従来のように、一昔前の中東では一連の代理戦争があったわけですよね。アメリカは直接イランと戦っていないし、イランも代理人でやっていたわけですよ。代理人同士でやっているときはそれなりに、ああ、まあこれくらいで、抑止が効くんです、ある程度。だけど、もしイランとアメリカが直接戦争が始まると、引くに引けない部分が出てきて抑止が更に難しくなる、停戦も容易ではなくなるというのが私の見方です。  これが始まったのは去年の六月なんですが、去年の六月以前と六月以後では中東の状況はもうがらっと変わってしまった。それを私は地殻変動が起きていると申し上げたんですが、このような状況では、仮に一時的な停戦が成立したとしても、イランのイスラム共和制が続く限りと言ったら失礼ですが、紛争の種は消えないだろうなと思います。イスラエルはイランの共和制を潰しにいっているし、イランの方はもう潰されたら大変だから命懸けで生き残りを考えていますから、非常に状況は去年の六月から変わってしまったというふうに思っております。この点について、御質問があれば後ほどもっと詳しくお話をいたしましょう。  話を元に戻します。  さきに述べましたとおり、中東と欧州では抑止に失敗しているわけですよね。ですから、何とかしてこのインド太平洋地域での抑止の失敗だけは避けなきゃいけないと思っています。しかし、欧州や中東での戦争が長期化すればするほど抑止のためのコストも上がってきている。これを忘れてはいけないわけですね。  最後に、では、日本は何をすべきなのかということについてお話しいたします。  一言、もうずっと言っていることですが、日本は生き残らなければいけません。これほどの、百年に一度の私は大変革の時代が来ていると思います。これ、どうやって一億数千万の国民が今までどおり幸せに平和に暮らせるか。そのためにまずしなきゃいけないのは、生き残りでございます。  この生き残りを考えるには、どうしても自由で開かれた国際秩序、先ほど申し上げたとおり、中小規模の国家にとっては有利な制度でしたけれども、そんな有利な時代はもう返ってこないかもしれない、残念ながら。今後は、より厳しい時代が来る可能性がある。だからこそ、日本は国土と国民を守って、来るべき危機を生き延びる必要があると私は思っています。  そのために国家として何が必要か考えまして、それは大義名分、戦略と、もちろん戦術と同盟国であります。自由で開かれたルールに基づく国際秩序は、一時的にせよ今衰えて、必ず戻ってくると思いますよ、しかし、当分は衰えていくんじゃないかと思います。日本の周辺では特に中国が台頭をしております。しかも、その中国は歴史上例のない規模とスピードで軍事力を増強しています。過去八十年間のこの現状をもしかしたら必要があれば力によってでも変更しようとするようにすら見えます、間違っているかもしれませんが。  このように、日本は、政治的、経済的だけではなくて、恐らく軍事的にも大きなチャレンジをこれから受けるであろうと思います。特に軍事面では、抑止力が先ほど申し上げたとおり不足をいたします。ここはやはり発想の転換が必要ではないかと思っています。過去八十年間の常識は、必ずしも機能しないかもしれません。外国に言われるまでもなく、日本は自国で自国を守る、自国の利益を最小限守る努力が必要、そのためには必要な抑止力と防衛力が必要だと思っています。これは、もちろんコストが増大するわけですから仕方がないことなんですが。  もう一つ大事なことは、人口が減っても、この抑止力不足を一国で、人口が減っているわけですから、一国ではとても無理だと思います。となりますと、恐らくこれから考えなきゃいけないのは、同盟関係若しくは戦略的なパートナーシップの多国化、多極化、これが必要になってくるのかなというふうに思います。  三番目、もう時間が来ましたのでこれでやめますが、三番目に重要なことはやはり国内経済の再活性化だと思っています。これから十年、二十年にわたって抑止力のコストが高まる中で、日本の国民の生活、そして生命を守るために、やっぱり経済を立て直さなければいけない。そのためには、国民にそのことを理解していただき、と同時に政治家の方々におかれては政治的な決断をしなければいけない時期が来ると思っています。  次の時代への備えは今から始めなければいけないと思います。そのための十分な抑止力と国家としての大義名分、それを実施するための安定した国内政治と国民の理解と支持、これを是非皆様の御協力で実現していただければと思います。  どうも御清聴ありがとうございました。

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