○参考人(印鑰智哉君) よろしくお願いします。皆様、貴重な機会を与えていただけたことに感謝申し上げます。
早速、問題に入らせていただきます。
まず、さきの衆議院農林水産委員会での審議においても、度々、日本における新品種開発が停滞していることが指摘され、その原因が問われました。その際、農林水産省の答弁は、気候変動に伴い育種のコストが増加しているというものでした。
三ページのグラフを御覧ください。
二〇〇一年、日本はEUに次ぐ世界第二位の育種大国でした。各国とも年々大きく新品種開発数を伸ばしていますが、日本だけが大きく減らしています。気候変動をその原因とするには無理があります。真の原因解明なくして実効性のある法案は成立し得ません。参議院の審議ではしっかりとした解明がなされることを期待いたします。
四ページを御覧ください。
日本では、一九九八年、種苗法制定以来、今回は五回目の改正となります。この二十八年間にわたりずっと育成者権が強化され続けてきました。今回は更に十年間の育成者権の延長が提案されています。世界での標準は十五年、それからあるいは二十年でありますので、世界に例のないレベルの独占期間になります。
育成者権を強めることが新品種開発を促進すると強調されるんですけれども、この二十八年間の歴史を見ればそのように機能していないことが分かります。むしろ、知財権を過度に強めることで、開発が盛んになるどころか、開発コストが高くなって競合者を排除する結果となり、イノベーションが停滞する可能性があります。
七ページを御覧ください。
米国では、前バイデン政権は二〇二三年に種苗の知的財産権を抑制する大統領令を発しました。米国では特許品種の品種開発は長年停滞しています。そこで、大統領令を出して、知財権を制限すると同時に公共品種に予算を投入しようという、政策が転換されたのです。
米国政府と同様に、日本政府もこの間の知財権強化一本やりの政策を改めるときが来ているように思います。
九ページに行きます。
重要品種に関する法律案ですが、その十二条第七項では、国から認定を受けた民間企業が、都道府県基本計画を作成し、都道府県に提案できることになっています。ということは、民間企業の影響が直接地方自治に及ぶことになります。そして、その企業は日本企業とは限りません。衆議院の審議でもこの件の質問がありましたが、農水省の答弁は、外国企業から申請があれば精査するにとどまりました。
日本は、UPOV一九九一年条約を批准しており、この条約により外国企業にも内国民待遇を与えることが義務付けられます。ですので、こうした制度をつくってしまえば、外国企業の拒絶は困難になります。
多国籍企業からすれば、これまでは日本市場はとても狭く、しかも優秀な品種が安い価格でせめぎ合っており、参入する意欲もこれまで持てなかったことでしょう。しかし、今回の種苗法改正は、種苗の海外輸出をにらんだ改正になっています。多国籍企業からすれば、日本の優れた育種データで新品種を開発できる上に、海外市場にも売れるとなれば、話は変わります。このままでは公的資産を海外企業の利益に変える法律になりかねません。
国内企業でも、その恩恵にあずかれる企業は広域で展開する僅かな大企業に限られ、種苗業界の独占が進むことが危惧されます。これまで日本の地域で使われる種を全国で増産し続けてきてくれている採種農家の方たちも、大企業の利益のために動員されるでしょう。果たして、それへの同意があると言えるでしょうか。
十ページに参ります。
この法案は、気候変動対策を通称名に掲げています。そして、政府はこれまで、ゲノム編集育種やAI育種の二つを大きな柱として検討しています。しかし、ゲノム編集によって気候変動対策を行うというのは、現段階では現実的ではありません。気候変動に関わる遺伝子は万単位にも及ぶと言われていますが、現在のゲノム編集技術は一つの遺伝子を操作するものにすぎないものであり、気候変動に対応できる品種は今に至るまで成功したものが一つもありません。
ゲノム編集品種は従来の方法で育種された品種と変わりないとして、政府は表示なしの流通を認めています。しかし、ゲノム編集、そして原子力技術である重イオンビームや中性子線を用いた人為的突然変異育種では、意図しないオフターゲット変異が存在し、時間の経過とともにそれが突然発現し、大きな問題を起こす可能性も指摘されています。米国のジョン・フェーガン博士は、これを時限爆弾と表現しました。果たして、気候変動が激化する今日、こうした技術に公金を投じるに値するか、疑念が生じます。
また、ゲノム編集種苗は、有機農業に用いることは禁止されます。禁止種苗を避けるためにはゲノム編集表示義務が必須ですが、日本政府はその表示義務を課しておらず、混乱が発生します。
EUは、先月、ゲノム編集生物の規制緩和を決めました。しかし、それと同時に、ゲノム編集種苗の表示義務を課すことを決めています。日本でも早急にゲノム編集種苗への表示義務制度をつくる必要があります。
十一ページに行きます。
もう一つの革新的新品種の開発手法として注目されるAI育種ですが、AIによって膨大な種の中から最適な交配の組合せなどが提案でき、人の能力拡張手段としては有効に使えるかもしれません。しかし、種を最終的に使えるものにするのはあくまで人であることを再確認する必要があります。
なぜ日本の新品種開発が停滞しているのか。一番大きな理由は、育種に関わる人材が急速に失われていることにあると考えます。AI育種を使えば人がいなくてもいい品種を作れるとしたら、それは大きな間違いです。
未知のリスクを伴うゲノム編集やブラックボックス化の問題を引き起こすAI育種に膨大な予算を投じるのではなく、即戦力となるDNAマーカー選抜のような現場の育種家の経験を助け、交配の効率を確実に上げる堅実な技術や、その技術を使いこなせる人材の育成にこそ投資すべきです。
十二ページに行きます。
主要農作物確保法案についても一言意見を述べます。
米国政府が公共品種の重要性を再認識したことは前にも述べました。超党派議員の皆さんによって公共品種を重視する法案が提案されたことは、とても重要なことだと歓迎いたします。
しかし、この法案での公共品種の定義は曖昧に見えます。本来、公共という名前を冠するものになるためには、その品種が真に公共性を具現した品種であることが求められるはずです。
また、この法案の実行を裏付ける予算が努力義務にとどまっているのも理解に苦しみます。片や、重要品種法案に基づき認定を受けた民間企業には様々な優遇措置があり、予算も確保されるのに、この確保法案での予算は努力義務にとどまるということであれば、余りにバランスが取れないものになってしまうのではないかと思います。そうなると、公共品種の育成が後回しにされてしまう可能性はあります。公共品種の場合にも、重要品種法案と同様の優遇措置や予算措置がなされるべきです。
十三ページに参ります。
今回の重要品種法案では、対象が広域で使われている品種に限定されています。広域で少数の品種を作るのは、種苗を売る側にとっては利益が拡大しますが、それを使う農家は、広域の多くの農家と競合状態に置かれることになります。競合に負ければ離農を余儀なくされる農家も出てきますし、地域が大きな打撃を受けることもあり得ます。
しかし、世界にはそれとは真逆の成功例があります。それが、イタリアのトスカーナ州で始まった在来種を保護し活用する州法です。州の法律ですね。一九九七年にこの州法が成立すると、トスカーナ州にとって重要な在来種を採種する農家への財政支援が行われ、また在来種の利用も活発になりました。土地に合った在来種は化学肥料なしにもよく育ち、そこにしかない在来種の種は、その地域の料理にほかの地域にない特徴を与え、ガストロノミーツーリズムで地域を訪問する旅行者が激増し、トスカーナ州の地域経済の活性化に大いに貢献しました。
トスカーナ州でのこの州法の大成功により、イタリア全二十州のうち十四州が同様の州法を作るに至ります。そして、イタリア中央政府も、二〇一五年にその州法を基盤とする法律を定めたのです。
イタリアと日本はとてもよく似ています。中山間地が多く、多くの農家が小規模です。でも、イタリアの農家には大きな強みがあります。つまり、その地域にしかない種を彼ら自身が持っており、世界はそのユニークな農産物に高い価値を与えているからです。
イタリアのような成功例は世界の流れになりつつあります。フランスでも二〇一六年、生物多様性回復法が生まれています。そして、韓国でも、在来種保護条例を定める地方自治体が生まれ、学校給食などに在来種の農産物が活用されています。フィリピン政府も、農家による育種を支援する法律を制定しており、多くの農家が仲間の農家が育成した気候変動に強い種を活用しています。
地域と農家を守るのは地域の種であり、多様な種は環境の変化にも強いことが期待できます。日本でもこの分野、つまり在来種は、農民による育種による種苗を強化する施策が必要です。
しかし、現在、日本国内では、海外産の安い種子価格との競合のため、種子農家は、その数は激減し、危機的な状況になっています。特に深刻なのが大豆採種農家です。大豆は日本食の要です。しかし、このままではあと何年、数年で在来種の大豆はほとんど失われてしまうかもしれません。外国の大豆では日本食にどれだけの価値が見出せるでしょうか。日本食、日本の食文化は風前のともしびです。イタリアと何と対照的なことでしょう。ここは政治の出番です。
最後、十六ページに行きます。
最後に、日本政府は、東アジア植物品種保護フォーラムなどを通じて、アジア諸国に種苗法の改正とUPOV条約の批准を押し付けているとして、アジア各地の農民から抗議の声が上がっているということについて述べておきます。
私自身、ここ数年、マレーシアやインドネシアでの種の権利に関する国際会議に参加していますが、日本政府の行動に対する強い批判の声に直面します。気候変動が激化する中、熱帯アジア地域に生息する農作物は、日本にとっても未来の食料保障のためになくてはならないものになる可能性があります。
しかし、現在のような敵対的な政策を続ければ、誰が日本に協力するでしょうか。ますます厳しい環境の時代を迎える中、アジアとの相互互恵的な関係を発展させることこそ、日本の農政が目指すべき道であり、ごく一部の種子企業だけを利するアジアの農民に対する敵対的政策は即時やめるべきです。
種と農民は深く結び付いています。日本政府も批准している食料・農業植物遺伝資源条約は種の政策決定に農民は参加する権利を有すると規定していますし、小農の権利宣言にもその権利は詳細に規定されています。
しかし、この今回の法案は、どれだけ農家の参加の下で審議されたでしょうか。もう一度、日本の種苗政策を見直し、多くの農家の参加の下に種の権利を守る種苗政策に転換することが、日本の農業、そして日本の社会の真の発展につながると考えます。御一考をお願いいたします。
ありがとうございました。
印鑰智哉 の他の発言
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2026-07-14 · 参議院農林水産委員会
○参考人(印鑰智哉君) ありがとうございます。
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2026-07-14 · 参議院農林水産委員会
○参考人(印鑰智哉君) ありがとうございます。
かなりいっぱいあって難しいんですけれども、まず、その萎縮効果のことについて一言申し上げたいんですけれども、実は日本はゲノム編集食…
2026-07-14 · 参議院農林水産委員会
○参考人(印鑰智哉君) 特に、UPOV条約が求めている育成者期間って二十年なんですよね。だから、日本はそれをはるかに突破しちゃっている水準に既になっているわけです、それを更に十年延…
2026-07-14 · 参議院農林水産委員会
○参考人(印鑰智哉君) この件というのはとても大事な話であると思うんですよね。
結局、何で、先ほどアメリカ政府がその方針を転換したと言って、その後のこと言ってなかったんですけれ…
API / MCP 利用
国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=印鑰智哉
MCP: search_diet_speeches(speaker="印鑰智哉")